ひげ


 寝ぼけ眼でパジャマから着替え、洗面所に向かい、そこで恋人の姿をみとめてやっとはっきり目が覚めた。
「おはよう」
 私に気が付いたドラコは鏡越しに朝の挨拶をしてくれるけれど、衝撃に打ち震える私には正直それどころではなくて。「ひ、」と喉奥から絞り出した声に、彼は不思議そうにこちらを振り返った。手に持っているものが、鏡越しではなく直接目に入り本物なんだと私はまた衝撃を受ける。
「髭を剃ってる……?!」
 昨日はお付き合いを始めてから初めてのお泊まりだった。ということは、寝起きの彼を見るのも初めてというわけで。ドラコは手元の髭剃りとわなわなする私を見比べて、『だから?』と言いたげに眉をひそめた。
「ドラコって髭生えるの……?」
「そりゃあ……」
 まだ不可解だという顔をしながら、彼は口元に指を添えた。もうほとんど終わりかけだったのか、その顔にシェービングクリームは残ってない。今のドラコはいつもの綺麗なスベスベ肌なので髭が生えてたなんて余計信じられなかった。彼はまだショックを受けている私をついに無視して、顔を洗い始める。顔の水気を拭き取ると、ドラコは「あのな」とむすりと口を曲げて私を見た。
「僕だって男なんだから髭くらい生えるに決まってるだろ」

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