ロ視点


「好きな人ができたんだよね」
 いきなりの告白に驚いた。そんな素振り今までなかったじゃんとか、誰だよそいつ、俺の知ってるやつかよ、とか。一瞬のうちに色々込み上げた――けど。結局脳に一番早く届けられた感情は、『ああ、ついにか』という安堵にも近い思いだった。ずっと心構えしていたせいで、この日が来るのを待ち侘びていたような気すらして不思議だ。来ればいいと思ったことは一度としてないはずなのに。
 無防備で無邪気な彼女が好きだった。退治人としても優秀な彼女に俺なんかの護衛や援護が必要無いことなんて百も承知だった。それでも彼女が迷惑がったり怒らないのをいいことに、家まで送ったりこっそり庇ったり。恋人でもないのにな。思い返してみると相当気持ち悪いな、俺。
 でも、だって大事な子だったから。憧れの兄や大切な妹に抱くものに似ていて、けれど確実に違う、そんな感情を抱いたのは、生まれて初めてだった。
 瞬き一つでさざめいた動揺を殺すのは簡単だった。こういう日が来ることは、分かっていた。こいつが俺を選ぶわけがないということは、ずっと前から――好きだと気付けた瞬間から、分かっていたのだから。それでもこの数年は幸せだった。楽しかった。――初めての恋がお前でよかった。そう思うと、自然と頬が綻んだ。
「そっか」
 頑張れよと告げる声は、我ながらいつも以上にいつも通りだったと思う。笑顔も、うん、多分うまくいってる。役者になれるかもしれないな、なんて思った。
「それだけ?」
「え?」
「……私が誰かのものになってもいいの?」
 硬い表情を向けられ、なにか間違えたのかと冷水を浴びせかけられた心地になりながらも、言われた言葉を咀嚼する。『誰かのもの』になる。大好きな――大好きだったこいつが。
「……俺がどうこう言えたことじゃないだろ、それって」
 お前は誰かのものにはならない。だってお前は、すでにお前自身のものなんだから。
――だから、俺にお前を制限する権利なんて、初めからずっとなかったのだ。

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