嫌い嫌い大嫌い


あなたが嫌いです。溜まりに溜まった怨嗟を身の内で抑え込むことは、もはや不可能だった。血を吐く思いでギリギリと紡ぐ。だのに、『あなた』はいつもとなんら変わらぬ飄々とした態度で、片眉をちょっと上げるだけ。無言で続きを促され、勝手に煽られている心地になり、腸がまた一段と煮えくり返った。きらい、あなたが嫌いだ。ご立派な血筋の生まれのくせに、吸血鬼らしい能力はろくになく、しかもすぐ死ぬような落ちこぼれ。しかしそれでも家族に、いえみんなに愛されて。不自由も憂いもなくただただ健全に歳を重ね、周囲に対して負い目など欠片も感じない。そんな完璧に満たされているあなたが心の底から疎ましい。生まれの差が、境遇の差が憎くて憎くてたまらない。どうしてこんな情けないひとが許されて、私はこんなに苦しいのか。あなたは易く死ねるのに、どうして私は死ねないのか。あまりの悔しさで、目の前がうっすら赤くなってくる。はあ、と間延びした相槌が耳朶を打つ。「きみ、なんにも見えちゃいないのだね」こんな理不尽な怒りをぶつけられてまだ尚、そうして呆れることのできるあなたが嫌い、大嫌いだ。「まあ、どうでもいいけれど」あ、ささくれ、だなんて自身の親指を見つめる男に、とうとう涙を零してしまった。

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