ロックなんて聴かない


これ、最近俺が好きな曲で! 好きな人と好きな話ができる。そう浮かれきっていた俺は、歌詞やリズムのどこがどう好きで、と粗方説明しきったところで、ようやくしまったと我に返った。だって彼女はロックなんか聴くような人じゃない。もっとこう、なんかしっとりした――ポロロンって感じの、儚くて切ない繊細な曲とかを聴くタイプだ。それを分かっていたくせに、今俺は俺の趣味をただ一方的に押し付けてしまった。罪悪感やら後悔やらで情けなく謝罪を繰り返す俺に、彼女は「今度聴いてみますね」と当たり障りない返事をして笑ってくれる。ウエーン、やさしい、好きだ……言えないけど。でもたとえそれがその場しのぎの社交辞令だとしても救われた。と、思ったのだが、この後日、たまたま彼女の携帯の待ち受け画面に、俺が薦めた曲が再生されているという表示がされているのを見てしまった。見覚えのあるタイトルに腹の奥から熱が込み上げてくる。もうどうしようもなく嬉しくて、今なら空でも飛べるんじゃないかってくらい幸せになり、胸がぎゅうっと締め付けられた。大好きだった曲が、さらに大切になる日が来るなんて夢にも思っていなかった。CDを沢山買って色んな人に薦めてまわりたい。けれど同時に、この世界でこの曲の良さを知ってるのは俺と彼女だけってことにできないかな、なんてバカなことも考えてしまった。

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