walk with me


「どらどらちゃんと結婚したいです」
「エッ。…………待って分かったもう何も言わなくていい。むしろ喋るな」
「さすが、ご賢察ですね。そういうわけなのでどうにかできませんか」
「喋るなっつってんだろ!!」
 ドラルクさんは荒々しく怒鳴りながらぷしゃっと弾けるように死んだ。いつになく口が悪い。ロナルドさん他を相手にしているような粗野な態度が新鮮でちょっと嬉しくなる。そんな場合じゃないが。
「とある筋からドラルクさんのお母様は他人の変身能力をバグらせる能力をお持ちだとお聞きしたんですが」
「だから喋るな。あとどの筋だ」
 教えろと怖い剣幕をされたが情報源はドラルクさんのお父上だ。教えるわけにはいかないので慌てて「それより」、と精一杯かわいこぶって上目遣いをした。
「ねー、お願いしますよドラルクさん。どらどらちゃん姿でバージンロードを歩いてきてくださいよ」
「いやだわ色んな意味で! バージンロードを歩くならきみでしょうが!」
「分かりました、じゃあ一緒に歩きましょう。ね、それならいいでしょ」
「なにも良くないんだが?」
 うーん、手強い。バ美肉はいいくせにリアルはだめなの? コスプレみたいなものでしょ、いいじゃんか。ぱちぱちと瞬きをしてうるうると彼を見つめる。
「私とバージンロード歩くのいやですか……? 私のウェディングドレス姿、興味無い……?」
「そんなわけないだろう」
「じゃあ」
「でもそれとこれとは全然別だから」
「チッ」
 凪いだ顔で優しい口調のままばっさりお断りされた。かなり頑なだ。仕方ない、最終手段だ。先日見た動画を思い出して口を開いた。
「ドラルクさん――」
 ◆
「ドラルクさん――笑ってみてください」
「は?」
「いいから。早く」
 急に真面目くさった顔をして、何を言い出すのかと思ったら。脈絡のなさに思わず眉根が寄ったが、彼女はそんな私を気にせず、もどかしげに催促した。よく分からないが、言われた通り口角をあげてやる。すると彼女は「わっ」と大袈裟に手を顔の前でぱちんと合わせた。
「牙! すごいかっこいい! 鋭い!」
「……は?」
 別に短い付き合いじゃない。もうとっくに見慣れたものだろうに、今更どうしたんだこの子。彼女も彼女で私の反応に、あれ、という顔をしていた。
「えっと……人間じゃないですね、その牙は……」
「そうですね……?」
 そりゃあそう……。吸血鬼なので……。さぞ不審げだろう私に、彼女はさらに困惑した様子で、少し俯いて視線を落とす。「いふきおかし……」そうした挙句、ささやかに耳朶を打った聞き覚えのあるワードに、私もようやく合点がいき、ひくりと口が引き攣った。こ、こいつ、煽ててその気にさせようとしてやがる!
「ドラルクさんはとても畏怖ですよね……古いし、あとき……き? き……恐れ多いです、畏んじゃう。あと、し……知らなかった……?」
「……」
 述べていて自分でも違和感があるのか、彼女は首傾げて疑問符を残して言葉を途絶えさせた。
 いや下手くそか! というツッコミをなんとか口内に押し留める。所々忘れてるし。とても畏怖ってなんだよ。ていうか知らなかったってなにを? 自分が畏怖接待ド下手だってこと? 今知れてよかったね。
「あの、だからとにかく畏怖〜みたいな……ね? ほら、どうですか?」
「いやどうですもなにもないんだけど?」
 なんだそのもういいだろみたいな投げやりな態度は。飽きるな、最後までしっかりやれ。呆れていれば、不意に彼女が胸の中へと倒れ込んできた。反射的に受け止めると、鎖骨あたりに頬を寄せて見つめあげてくる。
「ね〜いいでしょ、畏怖ルクさん。私、色んなあなたを独占して堪能したいんです」
「…………はあ〜〜〜」
 彼女の頭を抱え込んで頭頂部に顎を乗せる。正直今のが一番効いたし、かなりグラついたというか、もうきいてやるのも吝かではないなという気持ちになってしまった。
 けれどそれを素直に教えるのも格好がつかなくていやだし、かといってあのへったくそな畏怖で流されたと思われるのも癪だった。まったく、頬の火照りが鎮まるまでになにか上手い言い訳を思い付くといいんだが。

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