おにぎり


 土鍋でご飯を炊いた。なんで土鍋って、なんかキッチンにあったから。夜、ちょっと小腹が空いたのでつまめるものを探して寮のキッチンに足を運べば、コンロの横に『ご自由にどうぞ!』の張り紙がしてあった。冷蔵庫には空腹を満たせそうなものはなかったし、ググッてみたらそんな難しくもなさそうだし。というわけで勉強の息抜きがてら使ってみた。二合分だけ。無事ほかほかツヤツヤ真っ白なご飯が炊けたわけだが、ここからが問題だった。おにぎりを作ろうと思ったんだけど熱くて握れないのだ。いや、まだ試してないけど。でも蒸気がすでにあっつあつだから米に触らなくても分かる。これは無理。しかし私の口はもうおにぎりの口になっている。茶碗についで海苔と食べるのはまた違うじゃん。握られた飯が食べたいのよ、私は。
 広げたラップの上にご飯をのせ、包んで手のひらにのせる。一秒も持てなかった。悲鳴を上げて米の塊を放して両手を擦り合わせる。と、いうのを数度繰り返した。なんとか出来上がったボコボコの形のおにぎりを無理だ……と絶望して眺める。ご飯はまだたくさん残っていた。ふと視線を感じて首を回せば、キッチンの入口に爆豪が立っている。分かる、この時間お腹空くもんね。同族意識を抱いた私とは裏腹に、今しがたの私の行動を見ていたらしい爆豪はドン引きした顔をしていた。
「ザッッッコ……」
「いや、熱いんだよこれ」
「熱くねえわ」
 触ってもないのになにを。爆豪は引きつつも、静かな足取りで近付いてきた。普段通りの口の悪さではあるが、夜だからかいつもより大人しい感じがする。気が抜けているというか。油断している野生動物というか。
 私の隣に立った爆豪は、大きくラップを広げてその上にご飯の山を作りだした。ぎゅっぎゅっと数度リズム良く握って綺麗な三角のおにぎりを完成させる。すごい、コンビニのやつみたい。てかでっか。手がでけえ。そうして土鍋は瞬く間に残らず空になった。米粒一つ残ってない。家庭的といえばそうだけど普段の言動的になんだかちょっとみみっちさを感じた。言わないけど。
 売り物みたいな三つのおにぎりとガキが初めて作った泥団子のようなおにぎりが並ぶ。惨めとかもはやそんなレベルじゃなくてウケる。逆に芸術な気がしてきた。
「こんなん握るだけだろうが」
「熱いんだって」
「カス皮膚がよ」
「爆破個性持ちの人と一緒にしないでほしいな」
 爆豪はハッ、と鼻を鳴らして「それでもザコだろ」と容赦なく吐き捨て、おにぎりを数個片手で持って背を向けた。やっぱり自分用に作ってたらしい。まあ、私のために作ってくれるわけないよね。炊いたの私なんですけどね。いや別にいいんだけど。
「……あれ」
 皿に残されているのは、全て回収されたと思っていた大きな爆豪産のおにぎり一つだ。私の歪なおにぎりがない。爆豪、間違えたのか。今頃部屋で歯軋りしてそう。などと思いつつ、私はちゃっかり爆豪のおにぎりを部屋に持ち帰った。お米がふっくらしていて、コンビニのものとなんて比べ物にならないくらい美味しかった。ドジしてくれた爆豪に感謝。明日爆破されませんように。

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