夏という季節は、きっと人間にとって楽しい季節なのだろう。学生なら長期休みが、社会人であってもそれなりに長い休暇があって。しかもイベントだって目白押し。この町に来る前は、『なんだか賑やかだなぁ』なんて、たまの祭りの日には城から抜け出してジョンと一緒に夜店を冷やかしたりしていた。法外な値段も、特別だから許される。幸せ、プレイスレス。ああ、お祭りといえば花火もいいよね。目に痛いほどきらびやかに華やかで。音で死にがちではあるが、宵を照らしては散りゆく花々は鮮烈で実に見事だ。うん、あれも好きだな。同じものは二つとして存在しない刹那の美しさは味わいがある。あ、あと夏はアイスも美味しい。人間の物は基本食べないけれど、蒸し暑い夏の夜の風呂上がりに匙で二、三掬って喉へ流すブラッドオレンジアイスは格別だと思う。たくさんは食べれなくとも、不思議とゆったり流れていくあの時間が好き。それから蝉ファイナルとか、遭遇したら普通に死ぬから口ではグチグチ言いはするけどまあ正直ちょっと面白いし、そこまで嫌いじゃなかったりする。泣いてくれるジョンには悪いけれどね。
 さて、こうしてさんざ夏ならではの風物詩や良さを語ったわけだが、しかし今ではもう夏を手放しで喜べる私ではなくなっている。お祭りごと大好きな種族としては大変由々しき事態である。でも仕方ないだろう。なにせ夏は夜が短いのだ。ただでさえ我々の重なる時間は少ないというのに、いやになってしまう。これ以上彼女とともに過ごせる時を奪わないでほしい。祭りも花火もお風呂上がりのあの時間も。その他の夏独自で、けれどなんてことない日常を彼女と送ることは、きっとこの上なく幸せなことだと思う。けれどそれよりなにより、やっぱり離ればなれにされるほうがずっといやだった。ああ早く終われ、夏よ終われ。
 隣にいたいと乞うてるくせして終わりを願う。なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。自嘲と重たい溜息が一緒くたになってまだ青の残る蒸した夕空へと吐き出される。ままならないなぁと独りごちる私の頬を、しつこく空に粘っている陽光がちりと焼いた。まーじで憎たらしいな、はよ沈め阿呆。


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