ご褒美


 食事に行ったらセロリのお通しがでた。刻んであったから原型を留めていないし味付けがしっかりされているのでセロリ臭もしない。見た目だけではすぐには気付けないように調理されていた。
「こちらお通しのセロリの和え物になります」
「セピギャッ」
 まあ説明されてしまったからそんなの関係ないんだけど。向かいに座る青褪めた顔の恋人が、豆腐のようにぷるぷる震えながら涙目で見つめてくる。なんとも哀れみを覚えさせるその様子に、私は溜息を吐いてロナルドの小鉢を引き寄せた。
「ロッナルドくーん!」
 のが、二時間ちょっと前の話。
 ふわふわ思い起こしながら、私はロナルドの腕にしがみつく。遠慮なく引っ張ったつもりなのに、やつは「酔ってんなあ」と苦笑するだけで、ふらりともしなかった。コイツ、体幹が岩よりしっかりしてやがる。さすがだ、好き。筋肉がついて引き締まった分厚い腕へより一層抱き着いて、頬擦りをする。ええ酔ってます。へべれけとまではいかないが、それなりに。
「ねえロナルド」
「ん?」
「ご褒美ないの?」
「へ?」
「食べたじゃん、私」
 ここまで言ってもまだなんの話かピンとこないのか、ロナルドはぱちぱちと瞬きをした。ご機嫌だったのが途端に萎み、鼻の付け根に皺が寄る。ムッとしてしまったので彼の腕を軽く叩くと、ぺしりという情けない音が夜の住宅街に響いた。
「食べたでしょ、セロリの和え物!」
「セッお、おおおおお、おう、その節はどうもありがとうございます!」
「うん、良きにはからって。で、ご褒美は」
「え、えー……あ、ハムカツ食う?」
「食わない」
「アイス?」
「は、食うけど」
 でも今は、もっと別の。
「キスして」
「は?!」
「ハグしてキスして今してここでして!」
「今?! ここで?!」
 なんて狼狽しつつも、ロナルドは恐る恐る顔を寄せてきた。あ、するんだ。迫ってくる熱が意外で、ちょっと酔いすら覚めてしまう。人がいないとはいえ、ここは普通に往来。素面だったら絶対しないし、なによりできないはずなのに。彼も酔ってるみたい。私の飲むお酒をちょっぴり舐めた程度なのに。下戸すぎん? ウケる。とか考えてる間に吸い付いていた唇が離れた。真っ赤に熟れた顔を間近で見つめる。
「セロリの味した?」
「するか!……お前の味はした、けど」
 もごもご言うロナルドにポカンとしてから吹き出す。私の味って何? するわけないじゃん、さっきまでご飯食べてたんだから。ちょっとロマンチックが過ぎるな、この男。可愛いやつだ。そんな気持ちでへへ、と口角を緩める。
「セクハラだ!」
「なんでだよ!」
 きゃーっと笑いながら、私はロナルドを置いて近くのヴァミマを目指して走った。パ〇ム食べよ、パル〇。パンプキン味の新作がでたらしいから。


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