断髪


 髪を切った。
 というか、切られた。彼の名誉のためにいっておくが、これは不運な事故だった。むしろ、下等吸血鬼から庇ってもらった結果なので、こちらとしては感謝までしている。
 しかしそれを丁寧に伝えても、切った本人であるナギリさんは、依然として顔を白くさせたままだった。大きな口をぴっとり固く結んだまま私を凝視し、一言も声を発さない。目がかっぴらかれていてちょっと怖い。けれど彼がショックを受けているのは、明白だった。それこそ切られた私以上に。
「そろそろ切ろうと思ってたので」
「うそつくな、新しい髪飾り買ったんだろうが」
「ええ、聞いてたんですか……」
 ノータイムでばっさり返され、しかも睨まれて閉口する。基本返事しないから、私の話なんてほとんど聞いてないと思っていたのに。いや待って、なんで私が責められてるんだ?
「俺に見せると言っただろ」
「言いましたけど」
「俺はまだ見てない」
 そんな駄々を捏ねられても困る。この短さでは、あのアクセサリーは当分使えないだろう。
「……じゃあ、髪が元の長さくらいまで伸びたら、その時改めて見てください」
 約束ですよ、と笑う。ちゃっかり未来の約束をさせられたことにも気付かず、彼は「まあ、それなら」と納得してくれた。

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