断髪


 髪を切った。
 失恋したので。相手は会社の先輩で、新卒の時からずっとお世話になっていて、密かに想っていた。が、先日結婚報告をされた。「髪の長い子がタイプなんだよね」という、こっそり聞いた言葉を愚直に信じて伸ばし続けたというのに。本当に愚かだ。伸ばすだけで好きになってもらえると思っていたなんて! 
「……というわけで切りました。自戒のために」
「そっか」
 ドラルクさんにはずっと恋愛相談していたし、と経緯を伝える。
「つまり、もうその人は諦めるってことかい?」
「ええ、まあ」
 苦い思い出、そして次の恋への教訓及び糧にするつもりである。
「そう!」
 私がそう言うと、ドラルクさんはいつにないご機嫌さを湛えて華々しくニッコリした。
「なんかすごくご機嫌ですね?」
「そりゃあそうとも。なにせ、私にはようやくチャンス到来ってわけだからな」
「え?」
 細い指が伸びてきて、顎あたりで揃えられた毛先を撫でる。
「今までの髪型ももちろん素敵だったけど、短いのも、とっても可愛いよ」
 冷たい指が、頬の輪郭を僅かに掠めた。それは、たまたま触れたというには、あまりにも甘い触り方をしていた。

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