断髪


 髪を切った。
 私は同僚である鈍感五歳児くんに長いこと片恋をしていたわけだが、しかしある日突然『あ、もう無理だなぁ』と思ってしまった。そうして諦めたから、気持ちの切り替えをするために、まずは髪を切ってみた。おかげで首元が寒いったらない。冬はこれからだというのに、散々だ。
「……! ……!!」
「いやなに」
 さて、そんな私を見て、元想い人であるロナルドは陸に顔を出した鯉のように口をパクパクさせた。過剰な反応にうんざりした態度を隠さず目を眇めれば、彼はやっと「だって」とだけ声を発する。それから続けて「かみ、きってる」と辿々しく見たままの事実を述べた。
「な、なんで?」
「別に。ただの気分転換。……変?」
 好きなことを諦めるつもりだったのに、未練たらたらな問いかけをしてしまった。しかも「変じゃねーけど」という返答に安堵までしてしまって。意志薄弱にも程がある。
「でもさ、その……女子が髪切るのって、その……し、失恋した時って、聞くし」
 思いもよらぬ発言に唖然としていれば、恐る恐るといった具合で顔を窺われる。
「……そうなの?」
 私は今度こそ盛大に顔を歪めてしまった。いつもはニブチンのくせに、どうしてこんな時ばっかり。

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