お年玉


 ゴルゴナおば様がドラルクにお年玉を渡していた。今なら私もいけるのでは……?! 私はそそくさとゴルゴナおば様の背後付近に回り、こっそり喉の調子を整えた。
「……あ、ドラルク! あけましておめでとう!」
「ああ、おめでとう」
 二人が話し終えたのを見計らって、ドラルクに話しかける。あくまでも自然な感じで、たまたま通りかかっただけですよ――という風を装った甲斐あってか、ドラルクも愛想良く笑ってくれる。第一関門クリア。後ろで組んだ手をギュッと握り、内心で安堵する。いける、この流れなら今年こそ……!
「今年も遊ぼうね。それで、えー……あのこれ、おとし」
「結構だ」
 まだ途中だったのに、バッサリ切られる。冷ややかな顔にちょっと臆するが、グッと耐えて「な、なんで!」と負けじと彼を見た。この際だと隠していたお年玉を取り出すと、ドラルクはあからさまにイヤそうな表情をした。
「いい加減貰ってよ!」
「断る。受け取る理由がない」
「年下でしょ! 素直に受け取りなって!」
「たかが二十年先に生まれただけでなにを」
「……それでもお姉様って呼んでくれたじゃない、昔は」
「何百年前の話だ」
 大体二百年ほど前である。あの頃はドラルクだって私のことを『お姉様』と慕い、私がお城に遊びに行く度、トテトテ必死に私のあとをついて回ってくれた。当時一人っ子だった私はそれがとっても嬉しくて、彼のことを目一杯可愛がったものだ。
 ドラルクは呆れ返ったようにやれやれと肩を竦め、「いいか?」と目を細めた。
「あなたは、私の姉ではない」
 噛んで含めるような口振りに、胃が重たく沈む。そんな冷たいこと言わなくったっていいじゃないか。私は本当の弟のように思っているのに。
「姉同然の存在だもん……」
「いーや、違うね。あなたはあなただ」
 いつの間にか呼び方も、あなただとか名前呼びとかになって、お姉様と呼んでもくれなくなってしまった。嫌われたわけではないことは態度で分かるけど、それでも遠くへ行ってしまったみたいで、やっぱり少し寂しい。
「……昔はかわいかったのに」
 思わずぽつりと零せば、ドラルクはふんと鼻を鳴らした。なんだか勝ち誇ったような面持ちをしている。
「いつまでもかわいいだけの私と思わないことですな、レディ」
 ドラルクがやたら仰々しく私の手をとる。甲へそっと口付けを落とされた。手を握られたまま、妙なしたり顔をして口元を緩めるドラルクとしばし見つめ合う。
「先日お会いしたノースディン様と同じことしてる」
「……会うな! あんなヒゲに!」

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