センス
好きな人からのプレゼントなら、なんだって嬉しい。
その気持ち自体にうそはない――ないのだ、本当に。
「あっごめん、友達からだ……切るね」
「え、いいよ。でて」
お家デートの最中の着信。でも、と私が戸惑えば、ロナルドくんは「緊急かもしれないだろ?」と続けた。絶対そんなことない。だってさっきグラスを合わせた写真をストーリーにあげてるのを見た。どうせ酔っ払って楽しくなってるだけだ。
とは思いつつも、ロナルドくんの気遣いを無碍にもできなかったので、私は仕方なく通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あーっ! やっとでたぁ!』
「うるっさ」
ほらもう案の定じゃん。へべれけとなった声に鼓膜をつんざかれ、しかめっ面をしながら携帯を耳から放した。隣にいたロナルドくんも、小声で「うお」と驚いている。あーもう、やっぱりでるんじゃなかった、恥ずかしい……。
『ねー、いまなにしてるの? どこ? てか家行っていい?』
「絶対ダメ。今彼氏来てるから絶対やめて」
『かれしぃ?』
酔っ払っいイズ声がデカい、なぜ。ほんとごめんという気持ちでロナルドくんへ視線を流せば、ほんのり頬を染めた彼は「かれし……」と小声で呟いていた。いやどこに感動してるの……。
『かれし……あっ彼氏ってあの彼氏?!』
「そうそう」
『この前の誕生日にあのクソダサい腕時計プレゼントしてたあの?!』
「えっ」
「ちょ、声……!」
天然スピーカーばりの声量を咎めてから、ハッとロナルドくんを見る。先のふくふく顔はどこへやら、今にも死にそうな顔をしていた。しまった、先に否定しておくべきだった。これじゃまるで本当にロナルドくんのプレゼントがダサかったみたいだ。いや実際本当にダサかったんだけど。それでもこの伝わり方は最悪でしょ。私も私で顔から血の気が引いていく。
「いや、ちが、あの」
『あの魔法少女の変身アイテムみたいな、ピンクの、五歳が欲しがりそうなダッサイ腕どけ――』
切った。が、もう遅かった。
「エッエ、え……? だ、ださか……?」
「いやいやいや?! いやダサイっていうか、その……その……あの……な、なんだろ、えーっと……あの、あれ…………」
ダサくないよかわいかったよと断言できればよかったのだが、予想外のタイミングでバレてしまったことに私も動揺していて、うまく言葉を取り繕えなかった。こそあど言葉ばかりをどんどん重ねていく私に、とうとうロナルドくんは、白い顔のままひく、と口元を引き攣らせた。
「そっかぁ……」
「あああああごめん!!」
弱々しく項垂れた姿に堪らず謝ってしまったが、それもまた彼に刺さってしまったらしく、ロナルドくんはますます小さくなっていく。ダンゴムシのように丸まる彼の頭上で、私は意味もなくわたわたと手を動かした。
「ちが、あの、ちがうんだよ! 嬉しかったよ、あれ!」
「う、う、ごめん、ごめん……この期に及んでまだそんな気を遣わせちまって……おれは恋人の好みすら把握出来ないカス虫……」
「まって――聞いてよ、ロナルドくん! 本当に嬉しかったんだって!」
ぐずと鼻を啜りながら、ロナルドくんはちらりとこちらを窺った。やっとあげてくれた顔にホッとしながら、涙に濡れた両頬を手で包む。
「だってロナルドくん、一生懸命選んでくれたんでしょう? 私と一緒にいない時も私のこと考えて、選んでくれたんでしょう? そんなの、嬉しくないわけないよ」
「……ほんとう?」
「うん、ほんとう。それに大好きな人からのプレゼントだもの。とってもうれしかったよ、ありがとう」
微笑みながら、白銀のふわふわした頭を撫でる。ロナルドくんは微睡んでいる時のようにゆるりとした瞬きを一度して、ぼんやり私を見上げた。うそじゃないよと伝えるように視線を返し続ければ、彼はやがて緩やかに破顔した。
「そっか……よろこんでくれたんなら、よかった」
「うん、ありがとね、ロナルドくん」
「ん……でも次は頑張るな!」
へへ、とまだ涙の滲む瞳をしてはにかむロナルドくんに少し目を見張ってから、私も頬を弛める。次、そう、次ね……うん……。旅先で彼が買おうとするストラップや、時たま足を止めて見ている雑貨の数々が、ふぁーっと脳裏を過っていく。
「……次は一緒に選ぼうね」
好きな人からのプレゼントなら、なんだって嬉しい。
……嬉しいけれど、やっぱりまったく思うところがない――というわけではないのだ、残念ながら。
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