断髪


 髪を切った。正確に言うと、切れてしまった。すっかり不揃いになってしまった毛先をあーあと摘まむ。ギッザギザだ。一部は無事で長いままなのが輪をかけてみっともない。最近毛先を揃えに行ったばっかりだったんだけどな。
「どうして」
 これってやっぱロング料金になるのだろうか、なんてみみっちいことを考えていれば、ずっと黙り込んでいた彼が声を発した。いつも愉しげに声を弾ませるユザワさんからは想像がつかないくらい、感情の抜け落ちた乾いた声だ。それが――そしてショックを受けたように強張った相貌が合わせて珍しくて、私は目を瞬かせる。不意に骨張った手がすっと持ち上がったが、彼の手は宙でぴたりと動きを止めた。中途半端に上がった手が、ぎゅっとぎこちなく握り締められる。
「……どうしてこんなことをしたんだ」
「こんなこと」
「私を庇うようなことって意味さ」
 何事もなかったかのように手を下ろしたユザワさんは、そう吐き捨てた。今度はしっかり感情の籠った声だ。ただし侮蔑だけど。「戦えもしないくせに、無謀なことを」全くもってその通りなのだが、しかし助けられた人の態度とはとても思えなくて、つい苦笑いしてしまう。まあ別にいいけど。私が好きで勝手にやったことだし。そう割り切って、私はどこか不機嫌そうな彼へ笑顔を向けた。
「だって私、ユザワさんが好きなので!」
 好きな人が目の前で襲われそうになっていたら、誰だってそうすると思う。自分の気持ちは再三告げているし、今更隠すようなことでもない。なので恥も臆面もなくバカ正直に白状すると、彼は僅かに目を見張って瞳を揺らし、それから「……ほんと、どうしようもない子だよ、きみは」と溜息を吐いた。

 >>back
 >>HOME