鬱 屈 ダ ダ ン ダ ン ダ ン ダ ダ ー ン♪


 なにかおかしいな。
 とは、ずっと思っていたのだ。彼の知人に会う度、紹介された人はみんな揃って妙な顔をするものだから。当惑、戸惑い、そして桃君への批難を滲ませた、そんな顔。
「あ、あらモモちゃん、その子はもしかして……!」
「お母さん……ああ、この子は俺の恋人だ」
 今日、やっとその理由が分かった。初めてお邪魔した彼の家。玄関先で、ちょうど出掛けるところだったという彼のお母さま――私そっくりの顔が、桃君の照れ臭そうな肯定で、パッと華やぐ。彼女は年端も行かぬ少女のように目を輝かせた。そんな大きな赤い瞳で一心に見つめられ、ハッと放心状態から立ち直る。
「ご挨拶が遅れてすみません。……息子さんとお付き合いを、させて頂いてます」
「いいのよそんな!でもごめんなさいね、私これから出掛けなきゃで……またゆっくりお話しましょ!」
うふふと頬を紅潮させて笑うその顔は、どうしてかな、私よりずっと可愛く見えた。おかしなことだ、こんなにそっくりなはずなのに。
「桃君」
「ん?」
 手土産に買ってきたシュークリームと紅茶をトレーに乗せて持ってきた彼は、優しく首を傾げる。慈愛に満ちた、心底愛おしいという表情。ついさっきお母様へと向けられていたものとなんら遜色のないものだった。それに気付いてしまった今、もはや無邪気に喜ぶことなんてとてもできず、ただただ胸焼けを感じるだけだった。
「別れたいな」
 返事の代わりのように、床に落ちたシュークリームの潰れた音が、寒々しい居間に虚しく広がった。
 

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