素晴らしきPeanuts days


 
【学生シリウスと昨日なにかあったっぽい話】
夢主口悪い/夢主以外も口悪い/微キャラ崩壊/会話文多めでみんなノリだけで話す/シリウス夢だけどなんかあんまり夢感はない/全体的に酷い



「は? 昨日のこと覚えてねえの」
 談話室に降りていくなり、やたらソワソワしたシリウスに「よお」だなんてらしくもなく出迎えられたので「私はジェームズじゃないよ」と返したら絶望的な顔でそう言われた。
「覚えてるよ、私の誕生日だった」
 みんなにちやほやされてサイコーだった。夜には宴会もしてもらったし。マローダーズ、普段の言動はクソだけどこういう時だけは友達でよかったって思える。なんなら今日も誕生日だったらよかったのに。どうにかして毎日誕生できないものかと思案していれば、シリウスが「そうじゃねえよ」とイライラ頭を掻きながら言った。
「なんかしたっけ」
「……した」
「えっ」
「したが?!」
「うわびっくりしたなに急にキレてんの」
「なにかしたが、しちゃ悪いのか? なにしようと俺の勝手だと思うが?」
「そこに私が絡んでる以上シリウスの勝手ではない」
 やたら絡んでくるってことは私も関連しちゃうようななにかをやらかしたってことだろう。しかしシリウスは「忘れてるやつに何か言う権利はない」とやさぐれた様子で吐き捨てた。
「……どこまで覚えてるんだよ」
「リリーから誕プレ貰って……えっとちょっと待ってね……」
「そこから始まった時点で嫌な予感しかしない」
「……だめ、ピーターがバレリーナやり始めたとこまでしか覚えてない」
「やってねえよ」
「あ、リーマスだっけ」
「んなこたしてねえんだ、誰も」
 女子寮と男子寮の扉が同時に開き、麗しの百合姫とその他のマローダーズがぞろぞろ降りてくる。
「おはリリー。本日はお日柄も良く」
「おはよう! その、昨日は──あの──……ね! よかったわね!」
「えっよかったってなにが?」
 言葉を濁しながらも、リリーは最終的ににっこり笑ってなにかを祝福した。はて。訳が分からず首を傾げる。「今だって二人きりでよろしくやってたくせにすっとぼけちゃってさあ。照れてんの?」意味のわからないことをニヤニヤ言ってくるジェームズ、ほんとダルい。なにこいつ。
「だからほら──まさかあなた覚えてないの?」
「うわ完全に一線超えちゃった時の反応じゃん。覚えてるいやごめんやっぱ覚えてないから責任取って結婚しよ」
「しないわ……」
「おいリリーは僕と結婚するんだぞ!」
「しないわよ」
「じゃあリリーマスでいいや」
「……あっそれ僕?」
「誰かと思ったけどすっごいガン見」
「妥協で人体錬成すんな」
「妥協じゃない。実は前からリリーマスのことは気になってたってわけでもないんだけどまあとりあえず結婚しよ」
「しないよ」
「せんかぁ」
 リーマスの後ろから覗いたピーターが「本当に覚えてないんだぁ」と戦々恐々としたように零した。口数がめっきり減ったシリウスをちらちらと伺っている。
「ピーター! 昨日はお疲れ様。見事な火の輪くぐりだったよ」
「してない……」
「さっきと変わってんじゃねえか」
「あの十連火の輪くぐりをやってのける勇敢さに惚れました。いずれは五桁を目指してほしいなと考えています。結婚してください、リピーター」
「してないし絶対全部しない……」
「ピーターがいつになく強い拒否を示してくる」
 頭が取れるんじゃないかっていうくらいの勢いで首を振って拒否られた。いつも角を立てないような返答しかしないピーターからの全力の拒絶。感動して涙がでそう。
「ていうかさっきから変にエバンズ要素だしてくんのはなんなんだよ」
「は? 全然自然だけど。全然変じゃなくない? まぢ言いがかりつけんのやめてくんね? ケンちゃんの兄貴族のヘッドだけど呼んじゃうよ? 呼んだらまぢすぐ、もうワンコール以内で来っから。謝っても遅いから」
「ケンちゃんって誰?」
「ワンコールってなに……?」
「呼んでみろよ。ゴールポストに括りつけたままシーズン全通させてやっから」
「シリウスも変な喧嘩を拾い食いしない」
「てか普通に森羅万象にはリリーが宿ってるっていうか、それがこの世の理っていうか? ね、リェームズ」
「言いづらっ! なんて発音してんのそれ」
「宿ってないし心底巻き込まないでほしいわ……」
「ていうかリェームズって誰だよ」
「え、勘悪くない? 分からん? 流れで」
「分かった上で言ってるんだが??」
「ノリ悪……」
「小ぶりの石を枕にありったけ詰めるぞ」
 継母のような陰湿ぶりだ。引いた。根が暗い、ブラックだけに。前にこのギャグを言ったらその日一日食べるもの全部が鯖の味になる呪いをかけられたので口にはしない。
「僕には求婚してくれないの?」
「地獄の釜の火が凍ったらしてやるよ」
「もしかして僕のこと闇の帝王かなんかだと思ってる?」
「思ってない、ポジティブサイコパスだと思ってる」
「よりシンプルに酷くなった」
「ごめん、ほんとはリリー以外の女子はじゃがいもに見えてて、取り柄は顔面と実家が太いところくらいのDQN男だと思ってる」
「それなら、まあ……」
 こっちは納得するんだ。暖炉前の椅子に腰掛けたリーマスも本の影から「それはいいんだ……」と呟いた。当のジェームズは「僕の顔が良いのは事実だしね!」とか元気よく答えてるけど、いや取り柄の部分だけピックアップすんな。あと人生やり直せるなら知り合いにはなりたくないやつナンバーワンだとも思ってる。恋敵にえぐいイジメ仕掛けるようなやつと来世でもかかわり合いになるなんてごめんだ。
 リリーが珍しく気の毒そうにシリウスを見て、それから私に哀れむような視線を向けてきた。
「……あなた昨日、シリウスに告白してOK貰ってたのよ」
「えっ」
「あつーいベーゼまで交わしてたよ」
「えっ」
「しかもきみからね」
「えっ」
「それもみんなの前で」
「えっ」
 畳み掛けられ、嘘だあとシリウスを見る。彼は相も変わらず不機嫌そうで、ギリギリと親の仇のように私を睨んでいる。ほら、やっぱ嘘じゃん。なんか知らないけど八つ当たられてる。
「嘘じゃねーよ! なんでたかがバタービールで記憶なくすほど酔ってんだよ!」
「え?!」
 今度こそ大声を上げてしまった。「酔ってるとは思えないほどの言動だったのに……」「バタービールで酔う奴、屋敷しもべ妖精以外にいるんだって初めて知ったよ」「彼女にはファイアウィスキーなんて一生飲ませられないね」とか話している声が聞こえる。
 ファイアウィスキーは成人したら絶対飲むとして。言葉を探しながら、胸の前で手を握って目の前の男を見つめあげる。彼はふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたけれど、その耳は赤くなっていた。
「リリウス……」
「いい加減にしろ」
 スパンと頭のてっぺんをシリウスの手が掠める。仮にも告白OKしたやつにすることじゃねえ。
「ごめん、昨日のことはミリも覚えてないしぶっちゃけ思い出したくないんだけど……でもシリウスを好きだったのはほんとだし……」
「……おう」
「やってしまったことはもうなかったことにはできないかなって思うから……いや寮生全員をオブリビったらいけるかもだけど……」
「おう、絶対すんなよ」
「だからとにかく、一旦別れよっか」
「は?」
「いやだって覚えてないし。酔った勢いのあれこれって黒歴史でしかないからこの際ノーカンにしてほしい。この件はなかったことにしてください」
「ふざけんな責任取れ!」
 そう吠えられたと思ったら、噛み付くようなあついベーゼで口を塞がれた。
「ファーストキスなのに! 責任取って」
「だから昨日もしたんだが?!」
 だから記憶にないものはノーカンなんだってば。
 

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