好きなタイプ


 好きなタイプは、背が高くてクールな人。だけど残念ながら、この魔都・新横浜に、そんな存在はそうそういなかった。
「背が高いだけなら結構いるんだけどね。でもクールっていうのがね。無理なんだよ」
 ハイボールを片手に私がそう言うと、その場にいた女性陣は『分かるわ……』という神妙な面持ちでウンウン頷いた。それが、つい先日の忘年会での話である。酒が入っていたこともあり、声も気も大きくなっていた。だから私は、誰が聞いてるとかもたいして気にしないで、「理想にぴったりな彼氏がほしいよ〜!」と喚いたのだった。
   ◆
 休みだけど暇だからギルドにでも向かうかと街を歩いていたら、偶然にも吸血鬼マナー違反、通称マナーくんに会った。
「悪いことしてない? してるなら退治させてもらうけど」
「今は何もしてねーよ」
 腕を組んだマナーくんは、高い鼻先をそっぽへと向けた。今は、という言い方が引っかかったが、まあいいだろう。見たところグールもいなさそうだし。
「……アンタこそなにしてんの」
「私は暇だからギルドにでも行こうかなって」
「フーン……」
 興味なさげな相槌を最後に、会話が切れる。あれ、マナーくんってこんなに物静かな感じだったっけ。私の印象だと『マナー違反してやる〜!』とか『サテツの兄ィ!』とか天真爛漫に笑ってるイメージが強いんだけど。突然訪れた沈黙に、なんとなく気まずいなあと思いながらとりあえず笑ってみる。
「せっかくだしマナーくんも一緒に行く?」
「まあ、別にいいけど」
 来るんかい。なんでだよ。吸血鬼だろ。退治人の巣窟に来るな。いや誘ったの私だけど。
 でもまあ、この子はいつもサテツに会いに来たりしてるしな。そう納得して、じゃあ、と歩き出せば、マナーくんは無言で隣に並んできた。思ったより背が高いなと感じ、内心でひそかに驚く。普段サテツと戯れてるから、なんだか小さく見えていたけど。こうして並んでみると、私より彼のほうが頭一個分は背が高かった。
 意外だなあと思っていると、目があってしまった。マナーくんが訝し気に目を細める。
「なに?」
「いや……あー、マナーくんって、意外と静かなタイプなんだなって」
「意外ってなに? 別に、これが普通だし」
「そうなんだ? いやほら、ショットとかロナルドとかといつも騒いでるイメージあったから」
「ああああれはちげーし! あんなバカたちと一緒にすんなし!」
 あ、だいぶイメージ通りのマナーくんになった。そう思っていると、ハッとしたマナーくんがコホンと咳払いした。
「とにかく、俺はああいうのじゃないから。全然違うから。勘違いすんなよ!」
 彼はツンとした口調で、それでもしっかり言い含めてきた。私が頷いたのを確認して、やっと満足そうに鼻を鳴らす。
「俺はこう見えて、結構クールなんだよ」
 どうだというような、得意げな顔になんともいえない気持ちになる。多分、本当にクールな人はそう言うこと言わないと思う。でも私もクールな人に会ったことがないのでちゃんとは分からない。そういうパターンもあるのかな? 自己申告制のクールって、それってちょっとなんか、そこはかとなくダサい気がする。
 でもさすがにそんなことは言えないので、私は「そうなんだ」とだけ返して笑っておく。マナーくんは「そうだぜ!」と口角を吊り上げた。肯定されてうれしいのだろう、頬が赤くなっている。うーん、やっぱりクールには見えない。どちらかといえばかわいい系な気がするなあ、言わないけど。
「俺はクールだし、背も高いんだ」
「ああ、ね。それは思った。それ、シークレットブーツ?」
「ちげーよ素の身長だっての。アンタ案外失礼だな……ていうか『それは』ってなんだよ」
 不機嫌そうに言った彼へ、私は「言葉の綾だよ〜」とまた笑っておいた。
 

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