それは最も簡単で適切な


 お人好しでなんでもかんでも引き受けてしまって、控えめで、流されやすい、食いしん坊でやさしくかわいい彼が好き。大好きだ。好きで好きでたまらなかったから、何度も繰り返し告白した。別に受け取めてほしかったからではない。ただ、あなたを見ている人間はここにちゃんといますと伝えたかったから。
「あの、じゃ……つ、付き合う?」
 だから、気恥しげに紡がれた妥協みたいな言葉の羅列に愕然とする。
「その、俺も――」
「流されてるだけじゃないですか」
 控えめな声を強い口調で遮ると、サテツさんはショックを受けたような顔をした。その顔に胸が痛むけれど、でもだって、それ以外有り得ない。彼が私を好きになるはずがない、こんな、なんの取り柄もない――。
「ち、違う、俺は……たしかに今のは言い方が悪かったかもだけど、でも本当に――」
「信じられません、聞きたくありません」
 いやいやと幼子のように頭を振ると、勢いで零れてしまった雫がぽたぽたと地面に染みを作る。サテツさんが息を呑む音がした。ああどうしよう、いよいよ顔があげられなくなってしまった。
「……ほんとう、ほんとだよ、俺も――俺はきみが好きなんだ」
 彼がしゃがんだ気配に、ますます顎を引いて顔を深く俯ける。
「証明して」
 流されてるわけじゃないって、ちゃんと証明して。
 顔を覗き込まれそうになった直前、そんな言葉をやっと絞り出せた。けれど自分でも無茶苦茶を言っているなと思った。証明ってそんなの、どうしろというんだろう。そもそも、どうされたって、きっと私は納得できない。
「証明できないなら、付き合えない」
 それなのに口が勝手に動いていく。ああもう、なにが証明だ、偉そうに。なに様のつもりなんだろう。
「分かった」
 短い返事に、ああ、ついに呆れられてしまったと思った。自業自得なのに、目の前がますますぼやけていく。
「じゃあ、俺は」
 しかしなにかを決意したかのような声色につられ、つい涙でぐしゃぐしゃのまま顔を上げてしまう。サテツさんが真剣な表情で真摯に私を見上げていた。
「一生かけて証明してみせるよ」
 だから、隣で見てて。
 彼は朱が滲む目元を垂れさせ、へにゃりと、いつもの私の大好きな笑みを浮かべた。
 

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