埋め合わせ


「ほんっっっっとごめん! 埋め合わせはまた今度絶対するから……!」
「いいよ〜」
 という埋め合わせの埋め合わせの埋め合わせが今回のデートだった。すっかり聞き慣れた台詞だ。ひらひら手を振って行ってらっしゃいのジェスチャーをすると、彼は何か言いたげに眉根を寄せ、キュッと唇を噛み締めた。「悪い」とだけ呟き、ロナルドはテラス席を囲っていた柵を颯爽と乗り越え、騒動の中心へと向かっていった。
「絶対するから!」
「はよ行け」
 拳銃片手にチラチラこちらを振り替える危なかっしい恋人をカフェオレ片手に見守る。大方、同居人に捨てられるぞとでも揶揄われたのだろう。さっきの申し訳なさそうな顔と、不安そうな顔を思い出し、自然と口元が綻んだ。我ながら性格悪い。でもかわいかったんだもん。ぺしょりと畳まれた犬耳が見えるようだった。猫派だったんだけどな、私。とにかく、ああも分かりやすく愛しい恋人に縋られて、悪い気分にはならない。さて、今日はこのまま私の家に来る予定だし、帰ったらたくさん甘やかしてあげよう。私だけもらってばかりじゃ悪いから。あったかいご飯作って、一緒に食べて、お風呂にはいい匂いのバスソルトいれて。そうだ、一緒に入ろっかとか提案してみちゃおうかな。なんて答えるだろう。断るのか、それとも真っ赤になって受け入れるのか。どちらの反応をされてもきっと面白かわいい。それで上ったらバラエティ番組でも見ながらソファで二人並んでまったりしよう。ほら、こうしてロナルドとの予定を立てるだけですでに楽しくて幸せで、にこにこしてしまっている。だからそんな捨てられるわんこみたいな顔で仕事するんじゃない。怪我したら危ないでしょうが。

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