おしまいの日


 美人局にあって、それでもう退治人を引退って正気?
 ナハ、とおちゃらけて、しかし気まずそうに笑う男が信じられなくて、声が出なかった。喉がカラカラに乾いている。ゴウセツさんやヴァモネさんは「大事なくてよかった」だとか言っているが、とてもそんな気持ちにはなれなかった。
 だって私、すごく心配したんだよ。肺が爆発しそうになるほど、四肢が千切れんばかりに地をかけた。叩き付ける雨の中を何度も転んで立ち上がり、無事を祈りながら病院へ向かった。それなのにつつもた、美人局って。美人局ってお前。お前……お前さぁ。
「お、おい?」
 病院に来てから一度も声を発さない私に、ヒヨシが弱々しく声をかけてくる。
 分かっている、全部私が勝手にやって、勝手に感じたことだ。こんな心配も憤りも、そして言葉にならないこの悲しさも――なにもかも、私が勝手に抱えた都合。
「オ゙ア゙ッ?!」
 目が熔けているように熱い。鼻を啜ると、病院特有の薬品の匂いがした。
「な、泣くなよぉ」
 手が伸びてきた気配に、サッと身を捩り避ける。美人局、ってことは、ついさっきまで、コイツはそういうコトに及んでいたということで。そんな男に触られたくなかった。ああ、怪我をしている相手に私はなんて自分勝手なんだろう。コイツは一応、気を遣ってくれてるのに。
 自己嫌悪、後悔。それでも抑えきれない嫉妬。情けなさやらで感情がぐちゃぐちゃになり、ますます涙が溢れてくる。
「うぐ……お、おみゃーに泣かれると、どうしたらいいか分からん……」
「ご、ごめ……」
「や、べつに謝る必要は……」
 少しの沈黙のあと、頭の上にポンと手を乗せられた。まだ触られたくなかったけれど、かなり手を伸ばしてるんだろうな。そう思ったら振り払うのもしのびなくなったので、しょうがなく大人しくする。
「……怪我、はやく治るといいね」
「おう。……心配させて悪かった」
 俯いたまま唇を噛み締める。私は何も言わなかったのに、それでも撫でる力が柔らかくなった。
 

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