渡さん


 ミラちゃんに思い人ができた。
 遥か海の向こう、南蛮のお国で生まれ育った吸血鬼さんらしい。顔も知らないけれど、私は、ミラちゃんに首ったけらしい彼の綴りや好物、滅法格好の悪いお話。なにに変身するのが得意なのか、とか。他にもお月様のでているうちに口にするのは憚られるお話だって知っていた。
「……すまない、また私ばかりが話していたな。つい喋りすぎてしまう」
「いいよぉ」
 整った柳眉を垂れさせたミラちゃんに、ニコニコ笑ってみせる。
「私、ミラちゃんのお話聞くのだいすき」
「……そうか」
 ふ、と瞳が安堵で緩む。それが嬉しくて可愛くて、冷静沈着、寡黙でくぅる。に、見えて、実はミラちゃんは意外と表情豊かで、結構おしゃべりさんなのだ。彼はこんな彼女のことを知っているのかな。お話してくれるミラちゃんの様子から見るに、まだ知らない気がする。
 そう思うと自然と笑みが深まった。
「随分機嫌がいいな」
「えへへ」
「あなたが楽しそうだと、私も嬉しいよ」
 貝殻のように白い肌をほんのりと染めながら、彼女はたおやかに微笑んだ。鮮やかな紅で彩られた唇が弧を描く。件の彼から贈られたという紅は、ここらではあまり見ない色味だ。新鮮な血を思わせる鮮烈さでやや目に痛いけれど、これが異国の流行りなのだろうか。私がこんな色のものを使ったら、きっと浮いてしまうだろうと思う。しかし紅を引いたミラちゃんはいつもの数割増で粋に見え、凛と咲く芍薬のように美しかった。うーむ、なかなかやるな、ドラ公。唐変木のくせに、そこらの勘は悪くないらしい。
 半分負けた気持ちになりつつ内心でそう舌を巻き、私は溶けかけの氷菓子を匙で掬い、「あーん」と口元へ寄せた。素直に唇を濡らすミラちゃんが愛らしくて仕方ない。
 さあいっぱいお食べ、どんどんお食べ。そんな紅、さっさと溶かして消してしまおう。

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