許さん
「“ミラ”と、呼んでくれないか」
「みら?」
舌馴染みのない言葉に私が首を傾げると、お美夜ちゃんは気恥しげに眦を垂らして、控えめに頷いた。「実は」目を伏せて言いながら、流れてきた艶やかな黒い横髪を耳にかける。
「美夜はドラウスがうまく言えないみたいでな」
「……へえ。それで、ミラ」
「ああ、これからはそう名乗ろうかと」
うまく言えないってなんだアホかなにかわいこぶってんだ吸血鬼のくせに舌が一寸もねェのかあの南蛮男。発声練習五億回しろバカアホ毛引きちぎるぞ駄狼が手前の怠慢でお美夜ちゃんの素晴らしい名前を変えさせるなんておい努力しろ努力のドだろその頭文字はよォ。
「なるほど、やさしいね、お美夜ちゃんは!」
なんて本音を笑顔で綺麗にまるっと包んで隠してニッコリすれば、彼女はなにか物言いたげにもごと口元を動かした。
「……あのな」
お美夜ちゃんは逡巡してから、躊躇いがちに口を開いた。
「か……かわいくないか?」
「えっ?」
「その、うまく言えないドラウス……ちょっとかわいくないか?」
白磁の肌に、ぽぽぽと朱色が浮かび上がってくる。恥じらいを誤魔化すように、目を伏せて忙しなく瞬きを繰り返す彼女を、私はしばらく呆然と見つめた。そんな私に何を思ったか、彼女はコホンと咳払いをして、いつもの生真面目な顔を作る。まだ頬は赤いけれど。
「だ、だからとにかく、親友のお前にもそう呼んでもらえたら嬉しいな、と」
「……分かった、いいよ! 私もミラってとっても素敵だと思う」
「ありがとう」
お美っ、美、み…………ミラちゃん、は、瞳を緩く溶かし、綻ばせた。おのれおのれおのれおのれドラウスいやドラ公! ドラ公お前お前お前! お前ーッッッ!!
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