葦の髄から宇宙を覗く
「レムナンの様子がおかしい」
「へぇそう、ご愁傷さま。出てってくれる?」
レムナンへの告白。
それは、ラキオとともに星間航行船D.Q.Oを降りることが決定したにあたって、私が真っ先に行ったことだった。
ラキオは下船先のグリーゼでなにやらしようとしているようだったし、 その計略には恐らく……いや十中八九、私とレムナンも当たり前に組み込まれているはずであり――確実に巻き込まれる。私たち三人が否が応でも共に過ごさざるを得なくなることは、簡単に予測できた。だからこそ、私はレムナンへ想いを伝えた。
だって数多のループでじっくりことこと醸成されたこの感情を隠し通すなど、絶対に不可能だ。後々に好意が意図せぬ形で露見し、『友情ごっこで己を欺いていたのか』と恨みを買うよりも、自ら早々に好意を開示したほうが、お互いにとってリスクは低い。当時はそう確信していた。
実際、この選択は正解だったと今でも思う。
それこそ告白時には彼へ多大なる絶望とショックを与えてしまったけれど、そのお陰でレムナンは私との余計な交流を回避することができた上、私は私で想いを隠して接しているという負い目を感じず、フラットに彼へと接せれていた。
それが。
そのはずが。
「共用スペースに私が現れても逃げたりしないし、なんなら同じテーブルについてくれるし、あと任務に関係ない雑談もよくしてくれるようになったし……それにこの前とか、夜喉乾いたから食堂行ったら鉢合わせてそれで……ココアを作って、少しお喋りまでしてくれた!」
「……ハア」
指折り数えて主張すると、ラキオは深い溜息を吐いて顔をあげる。ようやくかち合った瞳には『面倒臭い』とはっきり書かれていた。
「君が一言発するごとに、グリーゼの平均IQが軒並み下落していくのを感じるよ」
「だって明らかにおかしい! 無視できない異常だ、引き返すべき。この前レムナンもそんなゲームをやっていたし」
そう、なんといまや隣でゲーム観戦することだって許されていて――ってそうじゃなかった。
思考が簡単に逸れた。明確に浮かれている自分を戒め、改めて気を引き締める。
とにかくこんなの絶対おかしいのだ。
……おかしいのに――おかしいけど――。
「とってもうれしい……」
「帰れ」
「それにてっ、手ッ――厳密には手首だけど――まで触ってくれてッ……!」
「底抜けに気持ちが悪いな……」
以前掴まれた手をぷるぷると掲げた私に返ってきたのは、純度100のドン引きだった。珍しく煽り抜きで、正真正銘から気色悪がっている。分かるキモイ、それは本当にそう。
でもそんな辛辣かつ的確な真実も、恋愛ボケしている私にはほんのちょっぴりしか刺さらない。
「だってさあ……」
思い出して火照る頬を隠すように手で覆う。ごにょごにょと言葉を押し出せば、ラキオはますます疎ましそうに目を細めた。しかしこればっかりは許してほしい。
「――目が、合うの」
「ハ?」
「目を見て、話をしてくれるの」
あの、レムナンが。
下船してからずっと、私を露骨に避けてきていたあのレムナンが。
数々ある変化の内でも、私にはこれがいちばん嬉しくて堪らなかった。
菫色の瞳と結びついても逸らされない。
怯えで翳るどころか、楽しげに緩んで細まる。擽ったいあたたかさに溢れていた。それはまるで、心を許されているのかも、なんて都合のいい錯覚をしてしまいそうになるほどに。
好きな人からそんなふうに接してもらえて、嬉しくないわけがない。
「……で、どう思う?」
――しかしとはいえ、喜んでばかりもいられなかった。
「ははっ、成程ね」
興味なさげに自身の爪を眺めていたラキオだったが、私の問いかけで口を歪めた。
「元の扱いが著しく悪いと、ほんの些細な変化でこうも浮かれ上がれるらしい。いじらしいものだね。この上なくどうでもいいけど。なんの利益にも成らない検証だよ。君たち個人の煩わしい事情に全く無関係の僕を巻き込んでくる低俗さと、安上がりな感性……合わせて同情するよ」
「ラキオは優しいよね。知ってたけど」
「神経がどうかしてるンじゃないの」
嫌味もたぶんに含まれてるだろうが、その『同情』は決して嘘ではないだろう。言動からたしかな情けを感じる。例えば、休息日であるにも関わらず部屋へ押しかけた私を強制的に追い返さないところとかに。面倒見のいい、かわいいやつだ。
感謝と慈愛をもって微笑めば、ラキオは不気味がって、やがて気難しい顔で思案げに目を伏せた。
「この案件を片したら医学分野の研究着手を優先すべきか?」
「なんで?」
「今の君につける薬を開発してあげるため」
「……お気遣いありがとうでもそれはさすがにかわいくない!……まあ、賛成ではあるけど」
「ふーん。今日発した中で最も賢明な発言じゃないか。どういう心境?」
「いやぁ……その、レムナンが、さ。もしかしたらなんか、あの――なにかのウイルスに罹ってるかもだし?」
「……ハ?」
革命軍としての活動期間もそれなりに長くなってきた。日に日に、そして着実に規模を拡げている我々を、国政軍も無視できなくなっている。志願者に諜報員が紛れていたこともあるし、サイバー攻撃も日常的だし――なにかしらの薬や新種の細菌かなにか、なんかそんな感じの怪しいものを知らずのうちに仕込まれてるかも――というのも、有り得ない話ではない。
「特にレムナンはリーダーだし、顔も割れている。標的には十分成り得る」
そう、今日の主題はこれだった。
我らがリーダーの異様な様子、総帥視点では如何に――かである。別にラキオ相手に恋バナしに来たわけじゃない。……惚気る意図がまるきりなかったわけでもないんだけど。
「もしそんなことになってたら大変だし、早急な対処と対策が必要……と、いうわけで、そういう視点的からラキオはどう思うかなって――……えっなにその顔」
つらつら話し終え、ふと部屋が水を打ったように静まり返っていることに気が付いた。なんだかんだ律儀に返っていた相槌が、いつの間にやらぴたりと止んでいる。あれと思ってラキオを見遣れば、端正な顔は音もなくぐにゃりと歪んでいた。侮蔑と諦念と憐憫がありったけ煮詰められた、鉛のように重たく冷えた眼差しに狼狽する。今日一実のある進言をしたはずなのに、なぜ。
「愚鈍もここまでいくと邪悪だね」
「じゃ、邪悪……」
そんで絶句から復活して、開口一番これだし。相変わらず言葉を選ぶということを知らない。痛烈に吐き捨てたラキオは、頭痛を耐えるように眉根を寄せていた。あんまりな言動に私もむっと目を眇める。
「じゃあラキオはレムナンがウイルスかなんかに侵されていてもいいって言うの?」
「僕が、何時、そんなことを言った? 話を飛躍させるな。もし仮に言ったとするなら、寧ろ君の方じゃない?」
「それこそ言ってませんけど?!」
「おや、そうかい?」
試すような物言いは軽やかだった。なのになぜか、妙に胸騒ぎがする。そうだよと言い返すことができなくて、私は結局口を閉ざした。
「君はここ最近のレムナンの自身に対する行動を、“異常”と断じた。そこに伴っているであろうレムナン本人の思想を微塵も考慮せずね。『レムナンは薬によって異常行動をとっている』と傍から決めつけているわけだ」
「それは……」
粛々と整理していく声には一切の淀みがない。惑いのない芯を湛えた双眸は、私ですら気付いていない私の本心を真っ直ぐ捉えているかのようだった。いつもみたく、言葉の濁流を浴びせられているわけではない。にもかかわらず、室内には、神経を削るようなヒリついた空気が充満していた。
「君はレムナンの行動が信じられない。故に、『レムナンは謎の細菌に侵されている』とすら考えている。それって結論としては、『レムナンは細菌に侵されていたほうが望ましい』ってのと同義だよね」
「全然違う! そんな言い方はやめて。私、そんなつもりは……」
「ならどンなつもりなのか、君なりの言葉で説明してみなよ」
「…………し、心配で」
「ははっ、滑稽だね」
事実のはずなのに、どうしてか口にするのを躊躇われた。なんとか絞り出しても無慈悲に一刀両断される。そりゃあたしかに苦し紛れもいいとこだったけれど――いやそれよりも、もしかしてこれは――。
肩身を狭くさせつつ、私は恐る恐るラキオを窺った。
「ラキオ、怒ってる?」
「いいや?」
声色に棘はない。過剰な嫌味もない。顔色だって平然としているし、なんなら美しく微笑んですらいる。
それでも、きっと――直感に乏しい私でも分かるほどあからさまに――“ラキオは嘘をついている”。
「ただ、固定観念に縛られて自ら視野狭窄に陥るような愚鈍な駒が、果たして僕の描く盤面に真に必要かどうか……今一度精査してみるべきかなと思ってね」
流暢に語られる台詞は、想像を遥かに超えた鋭利さをしていた。私はとうとう返す言葉を失った。ひたすらに口元が引き攣る。
やばいこれ怒ってるどころじゃない――激昂一歩手前かも。
ラキオは人の心に敏感だ。……いや、慎重のほうが表現としては近い気がする。嘘を見抜くのが苦手で情緒の機微に疎い。だからこそなのか、相手の心の在処を探ることに関しては、殊の外に丁寧だ。それもまた決して上手では無いのだけれど、それでも可能な限り汲み取り尊重しようという意思に、私は彼なりの不器用な誠実さを感じていた。効率重視な彼が時折見せる、そういった人心を優先させる一面を信頼していた。
そんなラキオが、ここまで容赦なく詰めてくるということは――それは私が今、レムナンの心を無遠慮に踏み躙ったからに、違いない。
「(あ、)」
やっと理解して、目まぐるしく回っていた思考がぴたりと止まる。
――そうだ。私は今レムナンを蔑ろにしている。
それらしくでっちあげた大仰な理屈を振り翳して、自分のことばかりで――肝心のレムナンの意思なんて一切考慮していなかった。
好かれていると勘違いしたくない、なんて一心で身勝手にレムナン自身を遮断していた。
こんなの、レムナンが嫌う人種となんら変わりない。
こんな丁寧にお膳立てされるまで、気付けなかった。冷水を頭からかけられたかのように、ショックで血の気が引いて口元が震える。
「……す……すみませんでした」
「上辺だけの謝罪に一体どれほどの価値があるのかな」
「……我が身がかわいいだけなのにレムナンが心配だとか宣って……大変、申し訳ありませんでした……」
「ハ、そのくらいの理解力と自己認知力は生きているようで安心したよ」
「私は、なんて愚かな……」
「異論の余地もないね」
深く打ちひしがれてがっくり項垂れれば、その無様さで多少は溜飲が下がったのか、ラキオは作り物めいた顔を崩した。ラキオが皮肉げに頬を持ち上げたことが合図だったかのように、張り詰めた空気も緩んでいく。見慣れた表情が戻ってきたことで、ほんの少しだけ心が慰められた。
「……ラキオは本当にやさしいね」
思わず呟くと、ラキオが心外そうにして眉をひそめたので、苦笑混じりに続ける。
「そうじゃなきゃこんな説教はしてくれないでしょう」
「その意見には賛同しかねるけど……ま、でも」
ラキオが含みを持って言葉を切る。
「僕は交配本能が齎す副次反応については、浅学寡黙だ。だが――好意を抱いている相手からの能動的接触を『薬物による異常行動』と断定する人間よりかは、よっぽど思い遣りがある――というのは、たしかに歴然だよね」
「やめてやめてやめて」
「こともあろうに、想い人を狂人扱いだもンねぇ?」
「やめてよお!」
「アーッハッハッハッ!」
新鮮な生傷を抉られて耳も心臓も痛い。体を捻って全身で拒絶する。ラキオはそんな私を存分に高笑ってから、ふと真面目な顔をして「いいか」と前置きをした。
「僕は一つの策に固執したりしない」
言いながら、ラキオはソファの背もたれへ深く体重を預けた。くつろいだ姿勢でゆったりと足を交差させ、腕を組む。なんか脈絡がないけど、一旦聞くか。そう黙って傾聴の姿勢をとれば、ラキオは私を見定めるように緩く頭を傾けた。その動きに合わせ、紺色の髪が首元へさらりと一筋流れていく。
「目的達成のためにあらゆる可能性を模索する。検討し、実行する。常に最適解の決断を下す」
「はい」
「だからさ、分からないかな……」
トントンと二の腕を弾く爪先に、強く目を引かれる。きっと豊かな彩りのせいだけじゃない。そのもどかしげな指の刻みには、一連の演じられたような所作の中で、唯一強い感情の滲みがあった。
「その僕が直々に選んだんだ。君らにもそうであってもらわなきゃ、困るンだけど?」
「え――」
ラキオがつと顎を持ち上げ、自室のドアを一瞥した。ならって私もそちらを見遣った瞬間、測ったようにドアが開く。
「……あ、“――”さん」
「れ、レムナン……」
「May」
『はい』
謎の箱を抱えて戸口に佇んでいたのは、話題のレムナンその人だった。彼は私を認めるなり控えめに笑い、ふわりと銀髪を揺らした。普段なら舞い上がるところだけど、直前までの会話のせいで今は少し罰が悪かった。それに、あまりにもタイミングが良い。
仕組んだのかとラキオを見る。ラキオは私の視線に全く取り合わず、ただ淡々と自室専属の擬知体の名を呼んだ。Mayと呼ばれた擬知体は、それだけで心得たようにレムナンの全身を素早くスキャンし、『異常ありません』と告げた。
『バイタルいずれも平常値――概ね正常範囲内です。特筆事項としては、睡眠時間が普段の計測値よりもやや下回っている点が挙げられます』
きっと徹夜でゲームをしていたに違いない。よくあることだ。そして、よく怒られている。例に漏れず今回もまたラキオにじろりと睨めつけられ、レムナンは鼻白んで慌てふためいた。
「き、今日はその、や、休みなので!」
「休みを休むものと知らないとは。揃いも揃ってなってないね。で、君はこれで満足か? まさかMayの診断を疑うほど落ちぶれちゃいないだろうね? ああ、念の為言っておくけれど、僕は呼んでないからね」
レムナンが訪れる前とはまた違う威圧的な顔つきで、『納得しただろうな』と凄まれる。診断結果を疑うわけないし、それにさっきの今だ。あそこまで言葉を尽くされて、反論する気など起きようもない。私はこくこくと繰り返し頷いた。
“May”とは、ラキオとレムナンが手ずから設計を施した擬知体である。“可能性”をその名に冠する新進気鋭の擬知体。そんなMayの解析はいつだって明哲だ。健康状態に問題はないのは確かも確か。つまりウイルスなんかの疑いも当然皆無、と。そうですかそうですか、それはなにより。……でも、じゃあ、結局レムナンはどうして――。
「あの、お二人はなんの話を……?」
ラキオの辛口なアドバイスを参考にするなら、ここ最近のレムナンの行動はレムナン自身の意志によるもの、ということになる。
レムナンが、レムナンの意志で、私へ好意的に接してくれている。
その真意を知る最も手っ取り早い方法は、今この場でレムナン本人に訊ねることだ。……が。
繰り広げられるやり取りに戸惑って立ち尽くすレムナンへ、私はにこりと微笑んだ。
「レムナンが健康で嬉しいって話かな」
「えっ? え、っと……ぁ、ありがとう、ございます?」
斜め前からの視線がぐさぐさと痛い。あそこまで言ってやったのにコイツ……と呆れているのがよく分かる。
私だってもう分かっている。変な決めつけをして暴走するくらいなら聞くべきだと。……いやでもごめんなさいそれはそれとしてちょっとまだ聞く覚悟ないですだって予想がつかなすぎるし心の準備が!
……などの旨の支離滅裂な泣き言を綴ったチャットを、後ろ手に持った端末で、こっそりラキオへ飛ばす。読んだろうに、視線の圧は和らがないどころか、ますます鋭くなった。
「……ハア、もういい加減疲れたな。この際なんでも、どうでもいいよ。兎に角、二人まとめて出ていってくれないか。生憎と僕は、貴重な休息を無意味に浪費するような生産性の欠けた趣味は持ち合わせてないンだよね」
「レムナン、何持ってるの?」
「あっ、これはですね」
「ちょっと、なに勝手に話を進めてンの?」
私とレムナンがグリーゼに来て最初に慣れたことは、ラキオの小言を聞き流すことだ。いつも通りににラキオの不満をスルーしたレムナンは、パッと顔を綻ばせて手元の箱を掲げた。
「これは、この前届いたレトロボードゲームなんです。二人でも三人でも遊べるので、せっかくなら……ラキオさんもどうかなと思って」
「お気遣い痛み入るね。結構だ」
「ラキオでも未知のゲームは怖いよね。正直に言えてえらいえらい」
「物事を曲解して捉えるのがとことん好きなンだね。つくづく度し難いよ。しかしいいだろう、軽く遊んであげるとしようか。予め言っておくけど、君の品性の欠けらも無い挑発に乗ったわけじゃないよ。その捻くれた根性を正してやるのも、上に立つ者の役目というだけさ」
「わあ……じゃあ、用意しますね」
「カードゲームなんだ。私も配るの手伝うよ」
「ありがとうございます。なら僕は、各種トークンを配るので……ラキオさんは、この説明書でも読んでてください。あ、カードとトークンの数って一人いくつですか?」
「……初期設定でカードは八、トークンは各種二ずつ。ねえ、この前にもレムナンが持ってきたゲームといい、どうしてこの手の旧式卓上遊戯の説明書は後出しが多いわけ? 前提条件は明記し列挙しておくべきだよ。美しくない。不合理にも程がある」
「そういう不合理さも含めて味なので……だったら始める前にラキオさんが解説してください。……あ、カード、ありがとうございました」
「いいえ。このゲーム、カードの絵柄もトークンも綺麗だね」
「! そうですよね、やっぱり!……じ、実は、“――”さんは、そう思ってくれそうだな、なんて、思ってて。良かった……」
余程このゲームで遊ぶのが楽しみだったのだろう。レムナンの相好が無邪気に崩れるので、私もつられて眦を落とす。かわいい、やっぱり好きだ。
ラキオのおかげで目が覚めた。だからいつかは、近いうちには、ちゃんとレムナンの本心を聞いてみたいと思う。彼が自分で教えてくれるのを待つのも、一つの道かもしれない。
どちらにしたって、私はもう、自分を守るための思考停止をしたりはしない。客観視と尊重を忘れない――ラキオのように。
それに、今更だけど思い出していた。全ては知ることで救われるのだ。待ち受けている真実がなんであれ、畏れることなどなにもない。
「(――そうだったよね、セツ)」
瞼の内側を叩くような懐かしさが急激に込み上げてくる。無性に切なくなって、私はどこかの宇宙にいるであろう相棒へ思いを馳せた。ああ、はやく会いたいな。あなたに話したいことがたくさんあるんだよ。あのね、私、好きな人ができたの。その好きな人はなんと女性嫌いのレムナンで、そしてそんなレムナンは、今、多分、私のことを――。
「“――”、さん?」
「えっ?」
「ぁ、いや……なんだかその……少し、ぼんやりしているように、見えた、から。……あの、だ、大丈夫ですか?」
――私のことを、そんなには嫌っていない、かもしれなくて。
もしかしたら、友人程度には、なれたのかもしれない。
だってそうじゃなきゃ話しかけてくれたり、こうして体調を気遣ってくれたり、ましてや休日にわざわざゲームに誘ってくれたりしない。はず。だろう。と思う。……多分。
完璧に言い切るには、まだ少し自信が持てない。今は彼の言動をレムナン自身の心からのものだと受け入れるくらいが関の山だ。
「大丈夫、元気だよ。ただ――」
言葉を区切れば、心配げに顔を覗き込まれる。ささやかに揺れる紫に、何度見ても綺麗な瞳だなあと思う。何度も見れている事実が、どうしようもなく嬉しかった。
「このゲーム、ルールが結構複雑そうだなって考えてた。うまくできるかな」
「ああ……レトロカードゲームは何かとクセがありますから……それが面白いところでもあるんですけど……。でも、ラキオさんなら、きっと分かりやすく説明してくれるはず、ですし……それに、“――”さんならきっと心配ない、です」
元気づけるようにレムナンは両拳を細かく上下に振った。急にコミカルでかわいい動きをしだしたレムナンに私は少しびっくりして、遅れて笑みを零す。ふふ、ああ、やっぱり好きだなあ。
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