Blood yet Love


「血を吸う代わりに私のことを性的対象として見てください!」
「勘弁して下さい」
「チキショー!!」
 またテンポよくフラれた。地団駄を踏むと、ドン引きした眼差しを送られる。しかしあまりの悔しさに構ってられない。もう断られて何桁? そもそも二百歳からしたら二十歳ちょっとの人間なんて子どもみたいなものでしょ。お菓子買ってもらえなくて通路でごねるガキみたいなもんだから、そんなに気にしないでほしい。
「きみの醜態ではなく執念に引いてるのだよ、私は」
「イーン……血を吸ってくれるだけでいいのに……」
「だけって。付加価値のデメリットが大き過ぎるだろう」
「じゃあせめて棺桶の場所聞いてくださいよ!」
「当たり屋かね。『せめて』の意味を辞書で引いてマーカーつけて来なさい」
「なら棺桶の場所教えてくださいお願いします」
「さっきからなんで妥協してるみたいなスタイル? 私がわがまま言ってるみたいに聞こえるからやめてくれる?」
 ドラルクさんに会ってから健康に――というか血の味に気を遣いだした。食生活の改善や早寝早起き禁酒禁煙はもちろんのこと、適度な運動なども心掛けるようになった。うなじだって常に綺麗なWM型に整えているし、首筋のマッサージだって毎夜怠ることはない。それなのに、返事は一向に『NO』ばかり。
「そんなにそそりませんか、私のうなじは」
「レディがそんな物言いをするんじゃない。はしたないぞ」
「そんなん言ったら床下暮らしのチンエッティはどうなるんです」
「あれはもうそういう生き物だし」
 床下から「チン?!」と聞こえた。いたんかい。「まあ、いい加減潔く諦め給え」余裕たっぷりなドラルクさんに、あーあと溜息を吐く。
「どれだけ足掻かれようと、きみの血は呑まんよ」
「『吸血鬼にとっての理想個体だ』ってお墨付きももらえたのになあ」
「……は? なに? 誰だそんなこと言ったのは」
「ニンニクだってもうずっと摂取してないんですよ、ドラルクさんが嫌いだっていうから。飲んだとき風味がでないようにって」
「おい誰だ」
「それに私ちょうどB型ですしきっとドラルクさん専用の都合いい食事に、」
 不貞腐れながらもさりげなく自己PRをしていれば、突然肩を掴まれた。全く痛くはなかったけど、驚きで一瞬息が止まる。目を白黒させる私の頭上に影が覆いかぶさってきた。見上げる視界を占めるは我が愛しのドラルクさんだ。変身したというわけでもないだろうに、普段より大きく感じるのはどうしてだろう。端的に言うと、威圧感がすごい。え、しつこすぎてとうとう怒った? というかさっきからなんか言われてた気がする、全然聞いてなかったけど。
「誰にだ」
 肩に食い込む指先は、砂になっては再生するというのを繰り返していた。いつもはどこか眠そうな目も、今は限界までかっぴらかれている。若干血走っていて少し怖いくらいだ。
「そんなこと、誰に言われた?」
 ほとんど肉のついていない紫色の顔にはぷっくら膨らんだ血管が幾つも走っていた。間近に迫るブチ切れ顔に、私は、普段よりちょっと血色いいなぁと現実逃避をした。
「きみにそんな言葉を吐きかけた下賎な輩はどこのどいつだ?」
 吐きかけただなんてそんな。しかも下賎って。あんまりな言い方に頬が引き攣る。ツッコミをいれて茶化してしまいたい。そんな空気じゃないのでとても出来ないけれど。しかしこれ以上彼の綺麗な指を死なせ続けたくはなかったので、私は口を開いた。
「御真祖様です……」
 たっぷり十分経ったあと、のろのろと再生したドラルクさんに「お祖父様であろうともきみの血を飲ませるのはやめてくれ」と言われた。血を飲んでもらったわけじゃなくて、採血したものを検査してもらっただけですよと事実を正確に伝えれば、床にまた砂山が出来てしまった。

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