次回作にご期待下さい


 ドラルクさんに告白したら「もうちょっと視野を広げたほうがいい、お嬢さん」と遠回しにフラれた。視野、視野を広げる。よく分からないけれど、とりあえずもう一回くらい砕けたいと思うので、砕ける土俵に上がるため、言われたとおり視野を広げることにした。具体的には、マッチングアプリを利用してみるとか。さてその結果。私は知り合って三秒の黒光りパツキン男にラブホへ連れ込まれかけた。出入り口の電柱に噛み付いて必死で抵抗しているところをたまたま通りかかったドラルクさんに助けてもらったのだ。やったね!
「ヤッタネ☆じゃないこの考えなし! 夜九時に待ち合わせってそんなんヤリモク以外のなんでもないだろうがなぜ気付かん!」
「ワンチャン吸血鬼かと」
「狙ってんじゃねー!」
 まあ一般成人男性に高等吸血鬼は当然の如く敵わなかったのだが。まさかジョン様にあんな日朝ヒーロー的必殺技があるとは。最終的な救世主であるジョン様は、ラブホ前に正座させられ説教を受ける私に、グッドラックと親指を立てて颯爽とシンヨコの繁華街に転がっていった。痺れるハードボイルドぶり。
「ばか、もうほんとおばか。こんなに頭が足りない子だとは思わなかった」
「うえーん、普段めちゃくちゃ紳士なドラルクさんからの、ブチ切れてるのに襲われかけた直後ということを慮った若干の気遣いを感じる控えめな罵倒、新鮮で気持ちいいよぉ」
「言葉に気を付けろ小娘!」
 ドラルクさんはギリギリと歯を食い縛り、目を剥いて怒っていた。殴られてないのが奇跡みたいなキレ方だ。殴られないのは殴ったら反作用で死ぬからだろうか。
「で、言われたとおり視野を広げたわけですけど」
「ですけどじゃないですけど? 何が広がったって? 毛穴? そんなことやったって頑固なばかくしつは取れないからさっさと閉じろバカ」
「もう一回告白してもいいですか?」
「無視か?」
 いい度胸だなと凄まれる。ついでに「いいわけないだろ」としっかり釘を刺された。ぴえん、せっかく体張ったのに。
「でもドラルクさんと前より仲良くなれた気がします! やっぴー棚ぼた!」
「この糠豆腐スライム頭め」
 忌々しそうに言われたが、私はめげない。むしろ嬉しかった。だってこんな罵倒前なら絶対聞けなかったもの。確実に距離が縮まってる。当たって破砕するのはもう少し仲良くなるのを頑張ってからにしよう。

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