構ってちゃん


 銀さんが雑誌にでた。観賞用に展示用、保存用、保存用の保存用、保存用の保存用の保存用も買ったし、電子版もスマホPCアイパッドでそれぞれ購入した。
「バカなの? 愛がおめーよ怖いわ」
「だから八人分のホールケーキを用意するか迷ったんだけどね、さすがに迷惑かなって思って止めたの」
「ぜんっぜん迷惑じゃないけどォ?! どうしてよりにもよってそこで理性取り戻したんだよ最後まで狂っててくれよそこは」
 散々喚き散らしたあと、銀さんは疲れたような深いため息を吐きながら後頭部をがしがし掻いた。
「献本されたやつやろうかと思ってたんだがな」
「えっっっ絶対に欲しい!!!!」
「いい加減にしろ絶対やらん」
 なんだよ、ケチ。ぶーたれながら携帯を開く。少しでも画質のいい銀さんを摂取したすぎて、勢い余って最新の機種に買い変えてしまった。大きい画面いっぱいに映る鮮明な銀さんにはあ、とうっとり感嘆の息を零す。精密機材越しの銀さん、堪らない。睫毛の一本一本が光り輝いていて、紅い瞳にうっすら影を落としているのがはっきり見てとれた。え、グロスしてる? 唇艶めき過ぎじゃない? セットなんてしてないはずないつも通りの天然パーマでさえ一種の芸術品のように整って見える。
「はあ〜顔が良……最高……」
「その最高なモノホンがここにいるんですけど」
 顔を上げると、長机を挟んだ向かいのソファで、太腿に肘をついた銀さんがつまらなそうにしていた。
「こっちの銀さんはお前専用なんですけど?」
「そうなんだけど……みんなの銀さんもたくさん堪能したいなって」
「……んで優越感に浸りたいって? お前も案外性格わりーのな」
 否定できないなぁなんて思っていれば、手の中から携帯が消える。銀さんは二本指で挟んでスマホを顔の前に掲げ、不機嫌そうに睨みつけていた。電源ボタンを長く押し、しっかりシャットダウンしてからポイッとソファに放る。あー……と真っ暗な画面を晒すスマホを見つめる視界に、目をじっとり眇めた銀さんがずいっと割り込んできた。
「なんでもいいけどよ、それ、今じゃなきゃだめなわけ?」
 少し瞠目してから「そうだね」と笑って銀さんの隣に移動する。嫉妬深い質なのは知っていたけど、まさか雑誌の自分にするとは思ってなかった。でも、彼の言い分も最もなので、今は可愛い私だけの銀さんにたっぷり構ってもらうとしよう。

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