アイ・ラブ・ユーを訳すなら


 吸血鬼は寂しがり屋の影法師から生まれたに違いない。だって血液というものは生き物からしか作られないのに、それでしか生命を維持することができないなんて。自分以外のなにかを準拠とし、他者のぬくもりを必要不可欠としている。これを寂しがり屋と言わずしてなんというのか。
 あまり血を飲まなくても問題なく生きていけるドラルクさんは、長い年月を何百何千と死んで過ごすことで、少しずつ感情を落としてしまったのかなぁと思う。なまじそうして生きてこれただけ、自ら他人のぬくもりを求めるということを、無駄だと思っているんじゃないだろうか。数多の拒絶や絶望や諦観が今の彼を形作っているのかもしれない。
「吸血しませんか?」
「きみも飽きないな」
 うんざりした言葉を吐く彼に当然だと笑顔を返す。呆れ返った声に嘘はないのだろう。それでも、出会い頭に吸血を促せば、毎回彼の瞳が安心したようにひっそり緩むのをちゃんと知っている。
 できれば飲みたいはずの血を差し出され、それでも彼が私を受け入れないのは、きっと有り得ざる遠い未来――私がドラルクさんに飽きてしまうという未来を思っているからだろう。人の心が移ろいやすいことを知っているからこその予防線を張られていた。信用がないことを残念に思う反面、彼が『線を引く』という選択をしたこと自体を寂しく――そして不謹慎だが、うれしくも感じる。ドラルクさんにとって、私は簡単にいなくなってはほしくない存在なのだという証明でもあるから。
 私はあなたを拒絶しません。置いていきません。哀しい思いは決してさせません。人間としての残り六十年も、その先の永遠も。なにもかもをあなたへ捧げる覚悟はとうにできている。だからなにも我慢しなくていいし、不安を覚える必要もありません。私はずっとあなたの傍にいます。
 そんな気持ちを込めて、私は愛の言葉の代わりに「吸血してください」と告げるのだ。あなたが『さみしい』という感情を受け入れることが出来るその日を待ち望みながら。

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