SHINYOKOキャラメルラブストーリー


 コンビニの新作ドリンクを買った。ほろ苦いキャラメルのそれを味わいながら、パッケージの説明書きを読む。恋愛上手なオトナに送るとされるこのドリンクには、ロレーヌ岩塩とやらがひとつまみ入っているらしい。ロレーヌ岩塩。
「ロレーヌ岩塩ってなんですか?」
「フランスのロレーヌ地方で採れる塩だよ。深いコクがあるから、料理によく合う」
「ふらんす」
 ゲーム中のドラルクさんからすらすらと澱みない回答が返ってくる。料理にも覚えはないし、海外旅行などしたこともないので、お耽美だなぁというぼやけたイメージしか沸かなかった。ドラルクさんはゲームを置き、「懐かしいなあ」と思い出に浸るように目をつぶった。
「行ったことあるんですか?」
「うん、いつもの如くお祖父様の突発的計画でね。でも楽しかったよ。何十年前だっけな」
「ふぅん……」
 私の知らない過去へ思いを馳せてる横顔がつまらなくて意図せず硬い声がでてしまった。自分で話題を振ったくせに失礼だ。すぐに反省するが、ドラルクさんは特に気にした様子も見せず「それ美味しい?」と聞いてくれた。優しい。私は素直に頷き、少し考えてから口を開く。
「……いま私とキスすれば、フランスの気分が味わえるかもしれないですよ」
 こちらを向いたドラルクさんの瞳が驚きで見開かれる。自分でも大胆なことを、というからしくないことを言った自覚はあるので、目線を手元のドリンクに向けながら、「ちょっとだけですけど」と早口で付け加えた。羞恥がじりじりと顔を焼く。暫くしてから聞こえてきた小さな笑い声にばかなことを言ったと死ぬほど後悔したけど、伸びてきた手がそっと顎を上げてくれたことで簡単に気分が上昇した。
 キスしたいの一言もさらっと言えないなんて、恋愛上手とはほど遠い。でも当分はオトナな恋愛ができなくてもいい気がした。ドラルクさんは多分、こんな私が結構嫌いじゃないと思うので。満更でもなさそうな微笑みを携えて寄せられたドラルクさんの顔を見て、そんなことを考えた。

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