言葉足らず


 気が合って、だめだめな俺も見捨てず、どんなバカにだって隣で付き合ってくれる。しかもかわいい。俺がそんな唯一の女友達を好きになるのは当然だった。
「将来のことなんて考えたくないよー、えーん……」
「さっさと決めろよな」
 なんだえーんってかわいいな。という気持ちを呆れ顔で隠す。情けないし恥ずかしいし、なによりこんなこと言われても、困らせてしまうだけだろうから。
進路なんてもうずっと前、それこそ高校に入学する前から決めていた俺はとっくに提出済みだった。ていうか二ヶ月先延ばしにするのはさすがにヤバすぎるだろ。どんだけ悩んでるんだ。この件について、彼女はひとつも俺に相談してくれないし、悩みを聞いたって答えてくれないので、多分、力になれることはないのだろうと思う。くそ、頼りにしてもらえないのめっちゃさみしい。隠し事をされているという事実よりも、そんな気持ちが優先される。だからといってむりやり聞き出すこともできないし、いいアドバイスができるなんて自信もないのだが。
 無力な俺は、手持ち無沙汰に今日発売された分厚い週刊誌を捲る。提出し終えたら今日は駅前のスナバに二人で寄る予定だった。初冬の新作がでたらしい。早く行きてえなと来る放課後デート(と、俺は勝手に解釈してる)に思いを馳せる。ちょうど漫画のページを捲ったところで、「ねえ」とずっと黙っていた彼女に話しかけられた。
「十年後もお互いフリーだったら結婚しちゃおうよ」
「おー」
 やばい、今週のチャンプすげー面白……今なんて言ったこいつ。反射的に返事したけど……え、結婚? 結婚ってあの白い服を着るやつですか? うわ絶対綺麗じゃんめっちゃ見たい。え、隣で拝めるの? 俺が? まじで? いいんですか? ずっと一緒にいてくれるの? ていうかなんで十年後? 十年後に付き合っていきなり結婚するの? えなんで……まさか照れ臭いからってこと? 十年は友達期間を楽しみたいってことなのか? か、かわいい。なんだそれ。かわいい、好きだ。
 色んな感情が一気に駆け巡り、忙しなく浮かんでは消える。口が勝手にゆるゆるとけていった。真意をしつこく尋ねてやりたい。しかしこいつは、ぽんと軽くとんでも激重発言をしたが最後、なにも喋ろうとしなかった。ちらりと目だけで前を窺うと、流れた髪で顔を隠した彼女はサラサラと紙に文字を書き綴っていた。このタイミングで進路希望調査へ真剣に向き合いだしてしまったらしい。おのれ進路希望調査め。歯軋りしたくなる。けれど集中しているのを邪魔するのもイヤだったし、なにより今更細かく聞き返したりするのもダサく感じたので、俺も下を向いて漫画を読み耽っているフリを続けた。そうか、十年後、こいつと結婚するのか、おれ。なんて噛み締めながら。
 その後なぜか元気のない彼女に「ごめん今日はスナバ無理」と断られてがっかりしたけれど、まあもっと嬉しい約束ができたし、と俺は特に気にすることなく、駅で彼女と別れた。なにせ友達として過ごせる時間はまだ十年もある。その後はなんと恋人に、いや夫婦になることだって確定しているんだ。スナバなんてこの先幾らでも行ける。なにも焦る必要はない。茜色の夕焼けを見上げる。低い位置にある大きな太陽に、祝福されてるみたいだ、なんて浮かれきったことをしみじみ考えてから、はたと気付く。
「……そういえば告白してねえな」
 ま、いっか。十年後に言えば。両の拳を夕空に突き上げ腫れ映えとした気持ちで伸びをする。こんな不精を、その十年後に後悔することになるなんて、思いもせずに。


 >>back
 >>HOME