好きな人の好きなところ


「ドラルクさんって私のどこを気に入ってくれてるんですか?」
 投げ掛けた問いは、付き合ってからずっと気になっていたことだった。しかしこの質問自体が途轍もなくめんどくさい類のものだという自覚はあったので、これ以上めんどくさいと思われないよう、なるべく軽い調子に聞こえるよう尋ねる。ゲームに興じていたドラルクさんは一瞬動きを止めると、こちらを見てぴくりと眉を上げた。そんな彼にへらりと笑ってみせる。
 容姿が整っていて、紳士的で、教養もあって、しかもどうやら血筋というのも良い方らしくて。詰まるところ、私はドラルクさんを完璧だと思っている。すぐ死んでしまうという点も彼を前にしたら欠点にすらならない。ドラルクさんという吸血鬼は、私のように地味で容姿も性格も血さえも平々凡々な人間では到底手の届かない、高嶺の花のはずだった。
 なので、ドラルクさんが私の告白を二つ返事で受け入れてくれたのは、OKするほうが一重に面白そうだったからに違いないのだ。血を求められたことはないので食事と思われているわけではないだろう。享楽に重きを置いている性格を考えれば、『なんとなく』が一番しっくりくる理由だった。まあ、将来の非常食的キープという線もなくはないけれど。
 彼からの好意がないという点に関して悲しみはない。むしろその気紛れに感謝しているくらいだ。けれど、それでももし僅かでもいいと思ってくれているところがあるなら教えてほしかった。教えてくれたなら、今日からはそこを重点的に徹底して磨き上げてみせる。私は出来うる限り彼の好みに近付きたいのだ。ある日突然飽きられて捨てられないためにも。
「『気に入ってる』ね。なぜそんなことを?」
「なんとなく気になったので。あ、面倒ならいいですよ」
「まさか」
 ドラルクさんは明るく言い放ち、ゲームを置いて足を組むと、私を見てにっこり笑った。ゲームの片手間程度に軽く答えてもらうつもりだったので、早速計画が狂って戸惑う。もしかして、がっつり考えないとでてこないのだろうか。
「そうだね、まずは瞳が好きかな」
「瞳ですか?」
 答えてくれてホッとしたけれど、しかしそれはちょっと磨きようがないかもしれないと少し焦る。ドラルクさんは機嫌良く「ああ」と朗らかに続けた。
「赤みがかったブラウンにやさしい温かさを感じるのはきみの瞳だからこそなんだろうな。許されるなら、いつまでも覗いていたいものだよ」
「……ど、どうも――」
「恋人になってもう随分経つのに、未だに私を見るとき瞳孔がきゅうっと開くところも可愛くて好きだよ。照れたときに伏せられた睫毛が細かく震える様も小鳥のようで儚くて愛らしいよね」
「えっあの――」
「あとは隠し事がヘッタクソなところも可愛いし、私の好みに合わせようとしてくれるいじらしいところも好き。最も、ありのままのきみだって美しいしこの世のなにより好ましく思っているがね」
 お腹のあたりから凄まじい勢いで熱がせぐりあがってくるのが分かる。顎が勝手に震えて歯が鳴った。ドラルクさんは目を細めて笑みを深める。
「一歩引いてるとさり気なく隣に並んでくれるところも愛おしくなるし、名前を呼ぶと一瞬だけ唇を食む仕草をするところも可愛いと思うよ。それから――」
「うギャ、ぁ、お……ッス、ストッ、ストップ!」
「おや、もういいの」
 ドラルクさんの口の前に手を突き出す。手のひら越しで目を瞬かせた彼に「まだまだ言えるのに」なんて、なんなら少し名残惜しそうに告げられて愕然とした。
「も、もう充分、充分すぎます」
「ふぅん。それで、如何だったかな。感想は?」
「……、……なに言っても自爆する気がするので黙秘させてください……」
「そう、お利口だね」
 翳していた手にするりと細長い指が絡んだ。褒めるように指の腹で手の甲をすりすり撫でられる。突然始まった戯れをぎこちなく受け入れながらも、なんとなくあれ、という気持ちに苛まれた。なんか、ん、あれ、おかしい気がする。彼の纏う雰囲気が常とは違う、ような。
「最初からそうならもっと良かったのに」
 ドラルクさんはそう嘯きながら、もう片方の手を、私の頬を包むようにしてピッタリ添える。親指が唇へと伸びた。
「さて。きみが考えていたより、私はずっときみを好いていることがやっと分かってもらえたと思うんだがね?」
 目論見が、というより考えていたこと全てがバレていたことに動揺して思わず唾を飲み込む。鼻が触れ合うくらいドラルクさんの顔が近くなった。仰け反ろうにも後ろはソファの背もたれで、これ以上距離を離すことはできない。心臓が早鐘を打つ理由が恐怖か期待か、自分でも分からない。
「でも実はきみの『気に入らない』ところが、一つだけあるんだよね」
「な、なんでしょう、か」
 間近に迫る瞳が、唇を弄ぶ指が、『さあ聞いてみろ』と言っている。声なき声に請われるまま、私は息も絶え絶えで紡いだ。
「それはね」
 待ってましたとばかりに目の前の口が吊り上がり、尖った牙が剥き出しになる。
「いつまで経っても私の好意を信じてくれないところさ」
「ど、ドラルクさ――」
 弁解も息も、全て大きな口に呑み込まれる。私はこの日、初めて恋人の瞳が燃えるような緋色をしているのだと知った。

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