きみとしたいこと


ド誕生日小話 死なない話でコンプラ違反なので注意


「我は吸血鬼今日がお誕生日の吸血鬼くんを二十四時間だけ絶対に死ななくしちゃうオジサン!」
「グアー! なんて無駄に強力で使う相手が限定され過ぎなありがた迷惑能力!」
 というわけで、ジョンガードも虚しくドラルクさんは死ななくなった。まるで本日の主役であるすぐ死ぬ吸血鬼真祖にして最弱のドラルクさんのためだけに用意された吸血鬼のようだ……。ちなみに件の吸血鬼はドラルクさんを不死にするだけしてVRCに連れて行かれた。捕まっているのに満足げだった。
「そんなわけで残り二十三時間、死なないわけですけども」
「おめでとうございます?」
「おめでとうなものか」
 素っ気なく切り捨てられ首を傾げる。せっかく死ななくなったのに、ドラルクさんはひどく不機嫌そうに顔を顰めていた。
「私のアイデンティティーでありチャームポイントでもあったんだぞ。それが晴れの誕生日に失われるとは髀肉の嘆、遺憾の意、なんたる終末的悲劇!」
「でも何か……もし死ななかったらしたかった事とかないんですか?」
 誕生日にその念願が叶うなら、それは素晴らしいことじゃないか。というか死ななくなったならよくないか? 落ち込む理由も正直よく分からない。前向きにいきましょうよと励ますと、ドラルクさんは「そうだな」と逡巡して瞳を上に向けた。
「……まあ、ないとは言わないけど」
「でしょう」
「でもそれを叶えるなら、きみの協力が不可欠なんだが」
「えっ」
 助けてくれる? という囁きとともに顔が近くなり、じいっとつぶさに見つめられる。赤い爪がそっと這ってきて、骨張った指がひっそり深く絡んできた。体温の低い指の腹が手の甲を撫ぜる。
「い、いいですよ、私にできることがあるなら……」
 流れ始めた怪しい空気にどぎまぎしながらも、目を離さずに承諾する。ドラルクさんはにっこり笑った。わあ、いい笑顔。なにを頼まれるか分からなくて恐ろしい気持ちもあるけれど、でも、せっかくのお誕生日様だし。多少のワガママなら――。
「じゃ、寝よ!」
「え?」
 たった一言で空気がガラリと変わり、色気のいの字もなくなった。一つになっていた手が、お伺いを立てるような繋ぎ方から、ギュッと力強い繋ぎ方に変わる。嬉々とした様子でベッドまでエスコートされ、二人で寝転んだ。ちなみに今日はお誕生日なので、お泊まりをして夜の間は一緒に過ごすことになっていた。一日独占はできないし、今寝てしまったら今日はもうほとんど過ごせないじゃないかと慌てる。起き上がろうとしたが、布団越しにしっかり拘束される。
「え、え、あの、ドラルクさん?」
「朝ごはんはなにがいい?」
「朝ごはんって、いや、ドラルクさん朝は――あ」
 言葉の途中で気付く。そっか、今日は陽の光に当たっても死なないんだ。だから起きてくれるのか。私の思考を汲んで、彼は蕩けるような笑みを濃くした。
「なんでも作るよ、私」
「……エッグベネディクトとオニオングラタンスープが食べたいです」
「いいとも」
「スープは、私もお手伝いします」
 なので起こしてくださいねと伝えれば、彼はやんわり瞳を緩めて「それも楽しそうだけど」と笑った。
「でもきみには準備に専念してほしいなぁ」
「準備?」
「そう、デートの準備」
「……デート」
「うん。どこ行くかは、朝ごはん食べながら決めよう」
 楽しみだね。
 ポンポンと布団の上から眠りを誘う振動がする。夜は彼らの時間だから眠くないはずなのに、ドラルクさんの瞳は既にうつらと細くなっていた。
「……私、ドラルクさんと行きたい所、たくさんあります」
「そっか。うれしいな」
「はい。……ドラルクさん」
「ん?」
 彼が睡魔に捕まってしまう前に、と彼の名前を呼ぶ。色々あったせいで、まだ伝えることができていなかった。
「お誕生日、おめでとうございます」
「……うん、ありがとう」
 ドラルクさんは珍しくへにゃりと笑った。その笑顔の力が抜けている理由は、眠たいからだろうか。それとも祝いの言葉が嬉しいからだろうか。もし後者なら私が嬉しいなと思った。前者でもかわいいけど。

 青空広がるお日様の下、プレゼントを渡して、もう一度おめでとうと言って、そしてキスをしてみたら。彼は喜んでくれるだろうか。分からないけれど、また今みたいに笑ってくれたらいいなぁと思った。

 >>back
 >>HOME