ネコチャン
恋人に猫耳と尻尾が生えた。変身の練習をしていたら、元に戻れなくなってしまったらしい。事のあらましを説明してくれたドラルクさんの顔には、不本意ですとデカデカ書いてあった。「よりにもよって、こんな中途半端な感じで固定されちゃって」ドラルクさんは忌々しげに目を上へ向ける。捉えることは出来ていないだろうが、本人の意思に呼応してか、大きな黒い猫耳がピクピク動いた。今の彼には耳が四つある。でも元からネコのような後ろ髪をしていたせいか、そんなに違和感はなかった。言ってしまえば、ぶっちゃけ似合うも似合わないも特にないというか。しかしいつもなら『ネコミミドラちゃんもかわいいでしょ』という調子で楽しんでいそうなのに、どうも今回ばかりは結構本気で嫌なようだ。「若造にめちゃくちゃバカにされるし、耳からの情報量がエグくて死ぬ回数も増えたし。もうほんと散々だよ」早く御祖父様来てくれないかな。心底不愉快だと言わんばかりに顔を歪め、そんな愚痴を吐く彼に、「たいへんですね」とぎこちなく返す。なぜぎこちないかって、隣に座るなり、するりと腕に巻き付いてきた尻尾ばかりに意識を持っていかれていたからだ。グ、え、なに、なにこれ、かわい……。だってこれ、多分気付いてない。意図した触れ合いなら、もっと厭らしい態度でからかってくるのがいつもの彼だし。つまり、無意識。そんな事実が、尚更込み上げてきた気持ちを煽り立てる。ひぃ、かわいい。滑らかな尻尾の感覚と恋人の可愛さに悶絶しながら、「撫で、いや、耳触ってもいいですか?」と尋ねる。撫でるだとちょっと失礼かも、と途中で訂正しつつの私の言葉に、ドラルクさんはム、と口をへの字に曲げた。ちょっとの間を作ってから、「……どうぞ」と渋々といった許可がでる。「引っ張ったりしないでね」「もちろんです、優しくします」「うーん、言い方」こんなに大きな猫耳、触るの初めてだ。わくわくで自由なほうの手を彼の頭上に近付ける。すると触れるよりも先に、大きな耳がぺたーっと頭の形に沿って寝かせられた。「ネコチャン!!」「は?」とうとう叫んでしまったのは、もうしょうがないことだと思う。
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