泣いちゃった!


倦怠期である。当然だ。だってロナルドと恋人になってから、もう数年経っていた。長らくの両片想い、そしてお互い初めての相手ということもあり、世間的に見ればむしろ遅い方だ。「マジ、お前……ほんとかわいくなくなったよなぁ!」ロナルドが苛立たしげにそう言い放った途端、ギルド内がシンと静まり返る。売り言葉に買い言葉。もはやすっかりお決まりの流れだ。なにが原因で喧嘩していたかすら覚えていない。とにかく、最近はもうずっとこんなことばかり。いつも通り、私の頭にもカッと血が上っていく。「あっそう! じゃあ別れようか!」「えっ」張り合いのない返事をしたロナルドを睨めつける。それでもロナルドはえっの口のまま石のように硬直していた。唐突に訪れた妙な沈黙になんだか拍子抜けして、こちらの気も削がれていく。「あっ想像しちゃってる」静かなギルドにショットのつぶやきが響いた。「想像?」「なにそれ」どよめく周りに、ショットは苦々しく笑いながら、「いや、ほら」とロナルドを指差した。つられて視線を戻せば、私の恋人は、目をギュッと瞑ってぽろぽろ涙を流していた。「わ、わかれない……やです……」「えっ? あ、うん、はい、ごめん……私も言い過ぎました……」「ウゥ、グッ……か、がわいぐないなんでうぞ、うぞだがらぁ……」「うわっ?!」彼の両腕がふらりと力なく上がる。と思ったら、伸びてきた腕にきつく抱き縋られる。身体に巻き付く太い腕と濡れていく胸元に、思わずぎょっと固まってしまった。「ごめん……ごめんなさい、ずぎでず……わがれだぐな……」ロナルドは、涙の合間を縫ってくぐもった謝罪と告白を繰り返した――囃し立てる周囲の声も気にせずに。困惑やら羞恥やらで頬が引き攣る。「……すき?」「え」ズ、と鼻を啜る一際大きな音のあと、胸に埋まっていた顔が上がった。銀の睫毛が涙で艶めいていて、普段より輝いていた。輪郭が分からなくなるほどグズグズに溶けた青い瞳が、至近距離からじいっと見つめてくる。「すき?」「…………すきですけどぉ」私は掠れ声を絞り出し、ぴょんぴょん跳ねる髪の中に手をさしこむ。撫でるように動かすと、ロナルドは、赤子のようにへにゃりと破顔した。

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