好きな人


「好きな人ができたんだよね」
 カマをかけるつもりだった。だって、ロナルドだって絶対私のことが好きだと思ったから。ある時から急に少し手が触れただけでも過剰に反応して真っ赤になるようになったし、「家まで送る」だとか、戦闘中はさりげなく背中に庇われるだとか、他の女子退治人相手にはしないような、分かりやすい女の子扱いを受けていた。しかしそんなあからさまなくせに、ロナルドは一度も私をデートに誘うとかそういうアプローチをしかけてきたことはなくて。お出掛けやらは何回か行ったけれど、それもいつも私から。あんた結局、私とどうなりたいんだ。私はロナルドと恋人になりたい。もっと深く知りたい。独占したい。求めてほしい。そんな一心で、私はいま、こうした勝負にでていた。
 脈絡のない私の台詞に、ロナルドは一瞬だけ固まった。本当に一瞬。大きく見開かれた瞳はすぐに閉ざされ、一度の瞬きとして昇華される。眦が穏やかに垂れた。
「そっか」
 頑張れよ、と、初めて向けられた綺麗で完璧な微笑みに息が止まる。
「それだけ?」
「え?」
「……私が誰かのものになってもいいの?」
 自惚れていたのかも、という湧き上がる羞恥。そしてそんな恥さえも上回る大きなショックのせいで、僅かに声が震えてしまった。ロナルドが困ったように眉を下げる。
「……俺がどうこう言えたことじゃないだろ、それって」
 言ってよ。言っていいのに――言ってほしい、ほしかったのに。
 嗚咽を堪えるのに必死で、そんな我儘はついぞ音にすることができなかった。

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