君が目の前に現れた時、この胸の高鳴りはどんなだっただろう。
まさしく別世界からやってきた君はこの世のものではない、どこか神秘的な雰囲気をまとっていた。
現れた時の月夜と相まってまさしく天女のようだったよ。
けれど、保護をした君は滾々と眠り続けるばかり。その傍らで私はずっと考えていたんだ。
その長い睫毛に覆われた瞳はどんな色をしているのだろうか。
その瞳が私を見つめることを想像しただけでこんなにも心が躍る、この気持ちは何と云うのだろう、とかね。
……その気持ちに気づいてからは下準備に忙しかったよ。
まずは君が帰ってしまう原因になりそうなものを消すことから始めた。
よくある話だろう?天女は男が隠した天の羽衣を見つけ出して天界へと帰ってしまう。
馬鹿だよねえ。本当に帰したくないのなら隠すのではなく消してしまえば善かったのに。
君が着ていたもの、所持していたものはきちんと処理をしたから大丈夫だよ。
ああ、でも向こうの世界の身分証があったのは助かったよ。君の名前もわかったしね。
そのおかげで此処もちゃんと、この世界で生きる君の為に用意された正式な病室だ。
裏病院とかではなく公の、ね。
設定としては君は事故に遭って意識を失い、この病院に運び込まれた。
それから君は来る日も来る日も眠り続け、恋人である私は毎日のように見舞い、世話をしに来る。
周りからは如何見えると思う?
事故に遭った恋人を毎日見舞いに来る、さぞかし健気な恋人に見えただろうねえ。
そうして目覚めた君は私の事を覚えていない。そして云っている事もちぐはぐだ。
却説、この場合どちらの云い分を信じると思う?
―― 勿論結果は君も知っての通りだ。
……大丈夫?震えているね。
そうだ!その指輪は気に入ってくれたかな?
君の所持品から推測して、なるべく趣味に合うものにした心算だよ。
何せ事故の直前にプロポーズをしたからね。如何にも世間が好きそうな素敵な設定だろう?
少しベタ過ぎる気もしたんだけど……、打てる手は一応打っておくことにしたんだ。
君がどんな反応をするかは目が覚めるまでわからなかったから、そこら辺は如何しても賭けになってしまうし、
まあ、でも ――――――
「上手くいって善かったよ。私もあまり乱暴な手段は取りたくなかったからね」
目の前の、見知らぬ男が笑う。
「私は太宰。太宰治というんだ。みょうじなまえさん、もうすぐ君の夫になる男だよ」
おはよう愛しい眠り姫