彼女を一目見た瞬間、息がとまるかと思った。
伏せられた長い睫毛からは涙が今にもこぼれ落ちてしまいそうで
噛み締めている唇からは僅かに血が滲んでいた。
華奢な躰を震わせながら何かから身を守るようにその細い腕で自身を抱きしめるその姿は、色白の肌と相まって淡雪のように瞬きをしてしまったら消えてしまいそうな気さえした。
途方に暮れたようにこちらを見上げるその瞳が私だけを映し出した瞬間、世界の中で彼女だけが色づいて、私の脳裏に焼き付いて離れなかった。
彼女、なまえちゃんの様子と所持品から本当にこの世界とは異なる処からやってきたのだと判った。
勿論後で身元を徹底的に調べはしたが、この世のものではない、どこか浮世離れした雰囲気は全てを納得させるに値する。
私と出逢ったなまえちゃんがこの世界にきたばかりだったのは好都合だった。おかげで行き場のない彼女を上手く丸め込み、誰にも知られないようにいくつかある隠れ家の一つに住まわせることができたのだから。
「おかえりなさい、太宰さん」
この世界で彼女にそう云って迎えられるのは私一人だけなのだと自然と笑みがこぼれる。
然し、同時にひどく危うい存在でもある事実に焦りが生まれる。
もしかしたら明日にでも彼女は自分の世界に帰っていってしまうのではないか。私に愛想を尽かして他の奴の元へいってしまうのではないか。
失いたくないものは必ず失われる。それに今更何も感じないはずなのに彼女を失ってしまうことを考えると平静ではいられなくなる。
追い求めてしまう。なまえちゃんとの未来を。
そうして確かめるように迫るのだ。
私から怯えたように目を逸らしても決して逃げようとはしないなまえちゃんには私以外に頼る当ても帰る手段も見つかってはいない。
――それにひどく安堵を覚える。
可哀想に、とは思う。
けれど私は決してこの手を放しはしないだろう。
君がほしい。ずっと傍にいたい。
仮令、君の世界を犠牲にしたとしても逃がしてあげられない。
その代わりに私は君に全てを、この世界で生きる為の全てを与えよう。
だから、どうか。どうか、この酸化していく世界の中で
君だけは色褪せないで。
きっと、この手を取らせる為ならば私はどんな事でもするのだろう。
嗚呼、此れは恋と呼べるのだろうか。
孤独の恋慕