「好きだよ、なまえちゃん。君が好き。仮令、君が私を見ていなくても」

そう云われるたび、本当は泣いてしまいたかった。
私には貴方でなければいけない理由なんて何一つなかった。助けてくれるなら誰でもよくて、ただそばにいてくれるならそれだけでよかった。

だから私は貴方が笑いかけてくれるたびに苦しかった。



「ずっと一緒にいてほしい」

そう云われるたび、本当は逃げてしまいたかった。
この異世界で他に行くあても、頼るところもないのに。私には無理だと、彼を支えることなんてできないと云って知らないふりをしたかった。こうなる前に衝動のまま逃げてしまえばよかったなんて、そんな自分勝手な後悔ばかりが胸に燻り続けて。

だから私は貴方といると、ずっと苦しかった。



「ごめんね、なまえちゃん。君が本当に望むモノをあげられなくて」

そう云われるたび、胸に抉るような痛みが走った。
その謝罪は私に帰れない現実を突きつけて。だけど、いつしか謝る貴方の悲しそうな顔の方が見たくなかった。それが嫌で顔を顰めた私に、貴方はさらに悲しそうにして、何も云えなくなる。

だから私は貴方に謝られるたびに、ずっとずっと苦しかった。


「君を愛しているんだ。君の世界の、誰にも負けないぐらい」


太宰さんの言葉は、魔法のように一瞬で私を動けなくする。
誰も私を知らない世界で、その愛の価値は計り知れない。

耳も、瞳のように閉じれたらいいのに。そうしたら、貴方といても苦しくなんてならなかったはずだ。
――― こんなふうに、こんなにも。




「だから、……私を好きにはなれない?」

諦めたような、寂しい期待を帯びたような瞳。それは私の罪悪感がそう見せているだけなのかもしれない。それがまた苦しくて、目を逸らした。


俯く視界に包帯だらけの彼の手が、私の手を握りこむのが見える。

「……だから私を置いていってしまうのかい?」

ごめんなさい、と口の形だけなぞらえて、音にならない言葉を紡いだ。それを音にしてしまったら彼を傷つけてしまう、と思ったから。この期に及んで彼の為だなんて、私はなんてずるいのだろう。


「私は、君でなければ駄目なのに……」

彼らしくもない消え入りそうな声が響いて、胸が刺すように痛む。このじわりと滲んできた涙は彼の為ではない。きっと私自身の為だ。



「だけど君を苦しめたい訳じゃないんだ。なまえちゃんが私を嫌いだと云うのなら潔く身を引くよ」

その言葉に思わず、彼を見上げた。

――― どうして。
どうして、そんなに優しい瞳をしているの。どうして、そんなに切なそうに顔を歪めているの。
どうして、それを見ると、こんなにも胸がいたむの。



「いま、君がここにいる。他の誰の為でもなく私の為に。それが堪らなく嬉しいから、……私は夢を見ていたんだ。
とびきりの、二度と醒めたくないくらい」

夢の行きつく先なんて、失うばかりなのにね。
そう云って笑う太宰さんこそ、夢のように消えてしまいそうで、私はこの時になって初めて彼の手を握り返した。

やっと帰れるのに、帰れるはずなのに。
どうして最後になって、私は ――


「太宰さん、わたしは……」

貴方と出逢ってから、苦しくてたまらない。
それなのに、どうしてこの手をはなしてほしくないと思うのだろう。




真綿で首を絞めるような愛だった
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