「俺はポートマフィアだ」


「……………」


なんとなく想像はついていた。彼が決して表沙汰には出来ないような仕事に就いていることは。
それでもよかったのだ。私にも彼に打ち明けられない事があるから。

私は秘密を告げる心算などなく、そして彼も隠し続けるものだと思っていた。
隠し事がある関係は楽だった。後ろめたいのもお互い様で、私はそんな彼との距離感と居心地の良さに甘えていた。
だって、誰にも告げられるはずもないのだ。自分が此処とは違う異世界から来ました、だなんて。



「愛してる。手前が好きだ。それ以上の言葉はない」


中也さんは私を真正面から見据えていた。
本当は、その視線から目を逸らしてしまいたかった。


「ポートマフィアには……俺には、敵も多けりゃ危険も多い。
それでも手前だけは、必ず俺が守る」

そう云っていつもしている黒い手袋を外し、私に向って手を差し出した。


「俺の手を取るということは、マフィアの世界に足を踏み入れることだ。もう一般人じゃなくなる。普通の幸せは手に入らねえ」


真っ直ぐな視線が私を射止める。


「けど、俺は俺なりに手前を一生かけて幸せにする。
仕事で他の女の相手もしなくちゃいけねえこともある。
だけど一番傍にいたい。最後の瞬間まで手を取っていたいのは手前だけだ」

目が離せない。その瞳は先程までは露程も見当たらなかった熱情をはらんでいた。


「だから…なまえ、俺のこの手を取ってほしい」

動けなかった。息さえ止められてしまったような感覚がする。

そんな私の様子に気づいたのか中也さんは差し出した手を上げ、そっと私の頬に触れた。
まるで壊れ物にでも触るように愛おしげに私に微笑みかける。



「返事は待つ。だが、否の答えだったその時はもう手前とは会わねえ。……二度と、だ。
それだけはわかってくれ。生半可な気持ちで云ってるんじゃねえ」

正面から斬り込んでくる、その包み隠さない言の葉は私を貫いて
心臓を抉り出されるような痛みを伴った。

彼の手を取れば、きっと私は帰れなくなる。囚われてしまう。
その決して正しくはない道は私を惑わせ、誘なおうとする。

―――――― 自問をする。
もし、このまま一生帰れなかったら……?
この世界にずっと生き続ける事になるのであれば彼の手を取った方がいいのではないか。
そんな、小汚い打算的な考えがある私は、その手に返せるものなど持ち合せてはいない。
マフィアである彼の方がよっぽど誠実だ。

中也さんは、きっと私に秘密があることはお見通しでも、決して無理には聞こうとしないのだろう。


どの道、普通の幸せなどこの世界の人間ではない私には到底望めないのであれば、せめて彼の手を取る我儘を許してはくれないだろうか。

瞳を閉じれば、何時だって浮かぶあの世界への郷愁を全て裏切って。

真摯な言の刃
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