特別な力は決していいことなんかじゃない。それは私が身をもって経験してきたことだ。
異質なもの、得体のしれないものは排除される。箱庭のような学び舎では、特に息苦しさを覚えた。
誰にも必要とされない、誰もを遠ざけるような、こんな力いらなかった。
この世界に来たとき、違う世界への不安もあったが、それよりもまさったのは、やり直せる、という想いだった。
―――― 大丈夫、今度こそ失敗しない。
孤児院での生活は元の世界と比べて苦しかったが、此処には私に対する恐怖の視線も、疎むような態度をとる人もいない。
誰も私を怖がらない、優しくしているだけでみんなが私を慕ってくれる、それだけで幸せだった。
神様がいるとしたら、私に同情して、助けてくれたのかもしれない。
でも、知っていた。私の力は何時だって私に不幸を運んでくることは。
そこかしこで怒号があがる。風を受けて炎から上がる煙はどんどん強く濃くなっていく。
孤児院のある場所は決して治安の良い場所ではない。近くでマフィア同士の抗争が起こることなんてしょっちゅうだ。
何時巻き込まれるか分かったものではなかったが、それが起こってしまったのだ。
年長の私がみんなの避難誘導をしていたちょうどその時、敵対マフィア同士がかち合った処に孤児院の子が巻き込まれていた。
私が力を使わなければ、間に合わない。きっと、あの子は助からない。
あの子は、私より年が少し下で、私が孤児院に入って最初に面倒を見るように云われた子だ。
同年の他の子達よりも背が低くて、ちょっと乱暴者だけど根は優しい子だった。
喧嘩ばかりして困らせられることが多かった。
けれど ―――
彼は私にありがとう、と云ってくれた。そんなの初めてだった。
元の世界ではどんな事をしたって、気味悪がられて、嫌がられるだけだった。
あの子がいなくなる、それを想像しただけで足元が崩れていくような感覚がする。
この世界で築いてきたものが、消えてしまう。
―――――― 私が選ぶ道なんて決まっていた。
この世界には私と同じように特別な力 ―― 異能力が使える者が少なからずいるらしい。
私がその力を使える事が露見した今、私を引き取りたいという黒服が孤児院を訪れていた。
「…………さようなら、お世話になりました」
私はずっと俯いていた。みんなの目が怖かったからだ。
あの事件の後は部屋に籠って誰とも目を合わさないようにしていた。
幸せな夢から醒めた現実を見たくはなかった。そんな惨めで臆病者の私にはマフィアの駒がお似合いなのだろう。
「待てよ!」
申し訳程度にいた見送りの中からあの子が躍り出る。
ああ、きっとこの子も元の世界の子達と同じように怖がるんだろうな、とぼんやりと思う。
最後にどんな暴言を吐かれるのか、大体の想像はついていた。
だって、ほらこんなに私を睨みつけて ―――
「待ッてろよ!なまえ、必ず追いつく。
だから、……さよならなんかじゃねえ!勝手に終わらせるな」
「……中也、くん?」
「俺が必ず迎えに行く。だから、手前は生きて、俺を待っていろ」
しっかりと目線を合わせたその瞳には、侮蔑も、怯えも、恐怖の色もなかった。
あるのは強い決意のこもった眼差しで、何の掛値もない、本心からだとわかるその瞳が眩しくて。
「なまえ、………俺が来るまで、絶対、死ぬんじゃねえぞ」
黒服に手を引かれていく中で、中也くんの言葉が私の中でずっと響いていた。
耳に残るのは愛惜の残響