「嫌だ。絶対別れない」
そう言って、ぎゅうっと私を抱き締める“恋人”の悟さんに困惑する。
今でもまだ信じられないが、なんとあの五条悟が私の恋人なのである。
前世で読んだバトル漫画に登場する最強の呪術師と恋人になるなんて人生2回目を果たしても予想していなかった。
ちなみに私は呪術とは関係ない家で生まれて、視えないし、聞こえない、まったくの一般人である。
接点なんてまるでなかったので出会いのきっかけは彼からされたナンパだ。
普段だったら絶対に見知らぬ人の誘いにのらないが、相手があの五条悟だとわかったので断れずにいつの間にか流されるままに恋人にまでなってしまった。
最初はもしかしたら自分に性質の悪い呪霊とかがついていて任務の為に近づいてきたのではとか思っていたのだ。
だけど彼はそんな素振りを見せないし、普通のカップルよりベタベタしてきて意味が分からない。ちなみに恋人だが彼の仕事についてはあえて何も聞かずにノータッチにしている。
つまり私は彼の職業や呪術なんて全く知らないフリをしているのだ。だって怖いし。
「なんで急に別れたいなんて言うんだよ」
任務じゃなくても彼にとって一般人の恋人なんて遊びだろうし、そろそろ彼の年齢的に原作開始になるだろうから一般人のモブとしては巻き込まれたくなくて別れを申し出た。
そんな裏事情を莫迦正直に言えるはずもなく考えていた言い訳を口にする。
「私って平凡な人間だからやっぱり釣り合わないんじゃないかなって……。ほら、悟さんってイケメンだし、お金持ちだし……私みたいなのとは住む世界が違う……、」
「僕が君じゃなきゃ嫌なんだから関係ないよね」
バッサリと切り捨てられるが、ここで引き下がる訳にもいかない。
一番あり得そうな理由を言い募った。
「それに何より悟さんの家の人も反対してるんじゃ……」
「……ねえ、もしかしてソレ、誰かに何か言われたの?」
予想外な返答に戸惑って何も言えない私をおいて、さらに小さな舌打ちと「あの老害ども…」という悪態が聞こえた。
「ち、ちがうから! 誰かに言われたとかじゃなくて…」
誤解されていると気づいて慌てて取り繕っても、彼はいつものように優しく笑った。
「何も心配しないでよ。なんとかするからさ、それより何もされてない?」
「……うん」
「そう、良かった」
とろけるような嬉しそうな笑みに、罪悪感が膨れあがるが
唇を噛んで、もう一度決心する。
「……誰の指図でもなくて悟さんと別れたいの」
「…………」
思えば、私はここで引き下がっていた方が良かったのかもしれない。
無言の彼を見上げ……そう、後悔した。
「そう言えば、僕の実家とか立場とか……話した事なかったよね?」
妙な気迫に後退ろうとした私の手首を握られて、冷汗が流れる。
「僕の家は業界じゃ御三家って呼ばれるぐらい古い家でね。しかも僕って優秀過ぎるから次代も期待されてるんだよね、困っちゃうよ」
全く困っていなさそうな様子の彼に話の意図がわからず焦りを感じる。
「だから君の事を話すよ。僕は君以外とは絶対に結婚もしないし、子供もつくらないってね」
ゆっくりと開かれた口から零れた声音があまりに無機質で理解が遅れる。
「な、なに言って……」
「何が何でも奴らは君のことを無理やり捕まえるだろうね。言っとくけど、アイツら人の意思や人権なんて聞きもしないし守らない連中だよ。
俺が何もしなくても、自由なんてなくなって……僕の子どもを産む人形みたくされちゃうかもね?」
想像し、ゾッと震えが走る。五条と同じ御三家で行われた悲劇が頭をよぎった。
状況は違うが、“彼女”はいったい何度、望まぬ妊娠をさせられたのだったか。
「あんな奴らのお膳立てなんて普段だったら絶対に嫌だけど、僕は君が手に入るならなんだっていい」
声をあげたいのに、口の中がカラカラで何も言えない。
そして「なんだっていい」と告げた唇が、だけど、と続けた。
「君が僕の恋人でいてくれるならちゃんと守るよ」
いっそ慈愛すら感じさせる瞳に、呆然と佇む私が映り込む。
「どうする? 君が好きな方を選んでよ」
どこまでも綺麗に微笑んだ呪術師が、呪いのように囁いた。
最初から呪われてる