―― なまえ・みょうじ。

ジーンの想い人。
一人暮らしで家族はいない。……そして、その経歴には謎が多い。
それが、なまえについてニーノが知る全て。あまりに少なく、だからニーノは心配だった。万が一を考えて怪しい動きがないかジーンが彼女を見始めたあたりからニーノはなまえをマークしていた。
結論的に云えば、スパイや諜報員の可能性はゼロ。

むしろ彼女はジーンの視線に怯えていた。
あからさまにジーンが見えたらすぐに道を変えたり、よく鉢合わせする通りを日常的に避けていた。友人の立場として見れば、ジーンのアプローチは功を奏していないどころか逆効果なことは明白で、ある意味面白かった事はアイツには内緒だ。
そしてACCAの制服を着たジーンに対するその反応は彼女には何かあると思わせるのには充分だったが、彼女がプロと考えるにはあまりにお粗末過ぎた。むしろ探し出されるのを怖がる家出娘がしっくりくる気がする。

だからニーノには確認しなければならないことがあった。
もう職務や立場としての役割はなくても、ジーンはニーノにとってかけがえのない友人には違いないのだから。


※※※


「ニーノがなまえのタイプだったら困るだろ? 確実に俺のものになってからじゃないと安心できないから」

紹介できない、と酔った友人は口走る。
いい加減ジーン自身からなまえを紹介されたいとせっついたニーノに返された言葉に少なからず衝撃を受けた。

―― そして、笑った。
笑ったら確実にへそを曲げるだろうなと思いながらも、その見当違いな心配と子どもじみた独占欲を吐露するジーンに抑えきれず込みあげてきたのだ。その反応を見たジーンは予想通り「お前、自分がモテるって自覚ある?」とつっぷしながら文句を云いはじめる。

大体今でさえ接点少なすぎて悩んでるのに、と独り言のような呟きさえ漏らし始めて、この酒に弱い友人はもうすぐ完全につぶれるだろう。
その直前に、どうしても聞きたかった本題を問いかける。掛け値なしの本音を聞きたくて、警戒されながらも今夜はここまで呑ませたのだ。


「好き。俺、本気だよ、ニーノ。反対されても……連れ出してでも、なまえがいい」

「そういう事はものにしてから言えよ」

「わかってる」

「けど、俺には…」

お前のその言葉だけで充分だ。どうなっても協力するよ。

酔いつぶれたジーンにはもう聞こえていないとしてもニーノはそっと、決意を固めるように呟いた。



そう遠くない未来で


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