※能力や本名のネタバレを含みますのでご注意ください。




「……うそでしょう」

高校の保健室のベットの上で、私、みょうじなまえは愕然としていた。
それは自分が転生して高校生になっていることに対しても、自分のあり得ないような状況に対してもの言葉だった。自分が高校生になったことはまだいい。いいというより、それよりも衝撃的な事態が起こっているからだ。

実は私はつい先程、階段から突き落とされたのである。
クラスメイトの男の子に。
その衝撃で前世の記憶が戻ったらしいが、今の問題はそこではない。相手の男の子だ。

その男子生徒の名は『墨野継義』。
私が前世の死ぬ直前ではまっていた作品の押しキャラと同姓同名、というより同一人物だった。

「……うそ、でしょう」

大事なことなので2回言った。
転生トリップ、しかもキャラとクラスメイト、とそこまでだったらここまでの衝撃は受けていない。
重要かつ一番衝撃的なのは彼に突き落とされる前までの会話である。

話を今世の記憶しかなかった、今日のホームルームまで戻そう。

私は何故か、そこまで接点のない一クラスメイトである墨野くんに放課後呼び出されていた。この時点で気づけよ、という話だが今世でも浮いた話一つない枯れた私には不思議で仕方なかった。どうせ掃除当番の代役や交換ぐらいだと思っていたのだ、わりと本気で。


「好きです。俺と付き合ってください」

「……………………え?」

いつもいつも眠そうで、ほぼいつも寝ているんじゃないかと思う彼に、なんと告白されたのだ。この時点での私も現実を直視できずに周りを見回して性質の悪い罰ゲームではないかと疑っていた。


「本気で好きなんだ。罰ゲームとかじゃないから、また勘違いしないでよ」

ぽかん、と随分間抜けな顔をさらしていたと思う。
今考えれば、この彼の言動から能力を使って他の確率世界へ干渉していたことがうかがえる。『また勘違い』とは、彼は何度わたしに告白したんだ。

そして、はたと気づく。
前世の記憶が正しければ、たしか彼は100通りの方法で好きな子に告白し、100回振られていたはずだ。
つまり、もしかして、と仮定する。
もしかしなくても今世の私は、彼の意中の人であり、100回も告白するまで執着されていた相手なんだろうか。


「嘘だと言ってほしい……」

つまるところ、この状況は彼が100回目の告白に失敗し、やけくそでこの未来を確定した、というところだろうか。ちょっと絶望したような切羽詰まったような顔を彼がしていたのは、その所為だったのだろう。
それにしたって階段から突き落とすのは人間として無しだと思う。

(けど、私が落ちる寸前にすごい焦った顔をしてたから……故意じゃない、のかな)

前世で見た性格的にもそうだろう。違う未来で確定させればいいのに焦っていた理由は分からないが。
そこまで思考したところで、ドアの開く音が静かな室内に響いた。音の方を向くと、くだんの彼が私の方に駈け寄ってきていた。


「ごめん、……大丈夫じゃ、ないよね」

「……えっ、何のこと? 私、どうして保健室にいるんだっけ?」

「へっ?」

私はすっとぼけることにした。穏便に学園生活を送りたいなら何も知らないままの方がいい。つまり、私は階段から突き落とされたことも彼に告白されたこともなかったことにするのだ。


「そういえば墨野くんに放課後呼ばれてたよね? ごめんね、よく分かんないけど保健室で寝てたみたいで、……もしかしてずっと探してくれていたの?」

「ああ、いや、……その、」

「ありがとう。心配かけちゃってごめんね。ちょっと怠くて、……帰って休みたいから話はまたいつか、今度でいいかな?」

そう畳みかければ彼は了承してくれた。罪悪感もある手前、強く出れないのだろう。またいつかの今度は絶対にないけど、恨まないでほしい。
―― だって、きっと。今の私が彼に告白されたら、

(私も好きですって、言っちゃうかも……)

100回も彼を振って傷つけておいて、今さら私も好きだなんて虫の良すぎる話だから。
それに今の人生を平穏に過ごしたいのも本当だ。戦士の彼に凡人の私では不釣り合いにもほどがある。


「さよなら、墨野くん」


などと甘く考えていた私に、この後の出来事は予想できなかった。

その後の彼は驚いたことにまたも告白をしてきたのだ。
あれが100回目じゃなかったの!? と思った私は咄嗟にまた知らぬフリをした。
今思えば、正面から面と向かって断ったのなら、きっと彼はきっぱりと諦めてくれたのだろう。しかし、もう彼を振るなんて行為ができない私はずっと躱し続けることで断ったつもりになっていたのだ。

そんな私に、彼はもう諦めなかった。
100回なんて私が数えても、もう疾うに過ぎている。
私が体験している現実は一度きりだが、きっと彼は何度も繰り返しているので、そのトライ回数は数えきれなそうだ。私を先回りする言動や行動の節々にそれが垣間見れて背筋が寒くなったのは一度や二度ではない。ちょっと……、いや内心かなり怖い。彼が好きでも怖いものは怖い。

よくよく考えてみれば彼は振られ続けても能力の限界の100回まで告白をトライした猛者なのである。その執着心を、私は身をもって知っていくことになる。

私が彼の告白にとうとう折れてYESの返事をしても、ずっと遠い未来の先まで永遠に。
だから私は意趣返しに、きっとこう言うのだ。

―― これは何回目のプロポーズなの?



100回目のきみと数えきれないこれからを


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