※ある意味BADエンド。アヴァロンお持ち帰り。若干大人向け表現がありますのでご注意ください。
嬉しくてたまらないといった様子で、マーリンはようやく完全に己が手中に納まった娘に口づけを降らせた。
まるで人間になったようだ。こんな気持ちになるなんて。
誰かの真似事ではなく、心の底からとめどなく溢れ出てくる感情。
生まれて初めて感情というものを持て余しそうになる。
これが嬉しいということなのか、これが幸せということなのか。
嗚呼、だとしたら今まで真似てきた感情はなんと空虚なコトか。
「なまえ、なまえっ、
…― なまえ」
キミの名を呼ぶだけで満たされる。
口づけに慣れないキミが息も絶えだえにボクの名を呼び返すのにも堪らなく高揚する。さらに舌を深く絡ませれば、彼女が鼻に抜ける甘い呻きを奏でた。逃げようともがく抵抗すら愛おしい。
やはり自分にとって彼女は“特別”なのだ。
―― だって、どんなコトをしても欲しかった。
人間ならボクのしたコトを外道と罵るかもしれない。けれど、それがなんだ。
自分は夢魔だ。今さら人間の謳う道徳や倫理に従う道理がどこにある。
……本当に、自分は“人でなし”だ。
啜り泣きはじめた彼女に、同情はする。ないはずの心が痛んだ気がして、誤魔化すように言葉を紡いだ。
「禁断の果実を食べたアダムとイヴもこんな感じだったのかな。
愛を知って求め合った。それならキミはボクにとっての智慧の実。いや、」
キミにとったら私はさながらイヴを唆した蛇かもしれない。
そこまで考えて自嘲する。
どうしようもないキミとの違いを認めたくない。なまえは異世界の人間なのだから、他とは違うんだ。なら、私だっていいじゃないかと言い訳のように正当化しようとする。
「こうなった以上、ボクはキミに愛してほしいだなんて云わないよ。
だって愛は見返りを求めるモノじゃあない。キミたち人間がよく云う言葉だ」
本当の愛とは見返りを求めない無償のモノ。
それは綺麗な倫理観で飾り付けられた無償という意味ではない。
ボクにとっては、ただ自分が愛したいから愛する。相手の意思とは関係なく、ひたすらに愛をそそぎ続ける。人間なら愛をおくり続けても返されないのは痛みを伴うだろうけど、ボクは違う。
なまえがボクの手の中にあるならそれでいい。愛せるのなら、それで充分だ。
「マーリン、わたしは、…っん」
それでも否定の言葉を彼女の口から聞きたくなかった。
だから、優しく優しく追い詰めて、喘ぐ唇にこれが現実だよ、と教え込む。
そうして彼女の身体の深い部分に触れると、涙に濡れる瞳が怯えを強く孕んだ。
安心させるように微笑むと、耳元でそっと囁く。
「時間はいくらでもあるから、ゆっくり溶かしてあげる」
誰にも荒らされたコトのない雪のような肌。その滑らかな感触に熱い吐息を漏らす。さらに強張った身体がぴくりと震えるのを感じながらも手を止めなかった。
耐えるようにぎゅっと噛みしめられた唇が咲いた花弁のように赤く色づく。
それはまさしく花のようで、愛しい彼女の、愛する花のような唇のはずなのに、なぜか無性に泣きたくなった。
「ねぇ、たった一度でもいい。嘘でもいいから、」
その唇で、愛している、といってくれないか。
ぽたり、ぽたりと落ちていく雫に、驚いたように見開かれた瞳が、こちらを見上げている。
口から零れた言葉が自分でも信じられない。ひどく苦しい。
息が詰まって死んでしまうような気がして、やっとわかった。これまで何度見てきても共感出来なかった人間の感情。
いまなら、いまなら、わかるとも。
どうしてこんなに苦しいのかも、拒絶されるのを恐れたのかも、満たされた筈の心が慟哭するのも。狂おしくて愛おしい、この衝動。
―― ボクの初恋。キミがボクにこの感情を与えたんだ。
齧った禁断の果実はあまりに苦い
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