※一部2015年クリスマスイベントネタとほんのりマーリンのマテリアルを含みます。
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって気楽にいこう」
「「…………」」
楽しそうに笑うダビデと対照的に無言になるエミヤとロビンに事態はなんとかなる状況ではないのだと、なまえにも分かった。
ザ、ザーーンッと吹き荒れる波音に「聖夜の悪夢の再来かもな…」と呟くロビンの声がいやに響く。
―― 仰いだ空から遮るものなく照り付ける太陽が眩しかった。
「まずは状況を整理しよう」
渋面のエミヤが冷静さを取り戻そうと仕切り直す。
事の起こりは今朝だ。
レイシフトの予定もなく、非番を持て余していたわたしはエミヤさんに声を掛けられた。なんでもロビンさんと釣り勝負をすることになったらしく勝負のジャッジをしてくれたら釣りたての新鮮な魚料理を振る舞うという彼らに誘われたわたしは安易にもついていったのだ。エミヤさんとロビンさんという他人に迷惑をかけないメンツだったので安心しきっていた。
―― ダビデもその船に乗っているとはその場の誰も知らなかったのである。
「…………今年はサンタさんに周りに迷惑とか被害をかけないサーヴァントだけになってくれるようお願いしようかな。手段はデリバリーライブでも何でも問わないから」
「待て、その願いはカルデアにいる大半のサーヴァントが始末されるぞ!
オルタ達は餌付けする君にべた甘だからな。叶えようとするに決まっている! それにあのオルタに遠まわしはよせ。はっきりと相手を指定するんだ」
「そうだぜ。例えば、杖で殴るアーチャーとか、歩く詐欺マシーンと手を組むと周りに見るも無残な損失しか生まないアーチャーとかはっきり言っておけ」
「そんな奴がいるのかい? それはひどいな! なんなら僕も微力ながら手助けしよう」
お前だよ、という視線が一斉にダビデに向けられる。
当の本人は「ん?なんだい」ととぼけているのかいないのか全く堪えていない。その様子に三人同時に溜息を吐いて肩を落とし沈黙する。一人ダビデだけが揚々としゃべりはじめた。
「そんなに焦る状況でもないだろう? 前と違って嵐でもなければ難破しているわけでもない。ただの遭難だから救助を待っていればいいだけさ」
「ただの、遭難……?」
「やめておけ。深く意味を考え込まないほうがいい。疲れるだけだ。
頭の痛い話だが、奴の云う通り焦らず救助を待った方がいいだろうな」
首をひねるなまえの肩に手を置いてエミヤは眉根を寄せて呟いた。そこにロビンが口を出す。
「そうは云ってもお嬢さんは俺達と違って生身に近いんだから、早いに越したことはねえでしょ」
「だから大丈夫だよ。今日中に迎えは来るだろうから」
「なんでそんな確信ができんのかね?アンタ、何か知ってるのか」
「決まっているよ。なまえちゃんがいるなら何処にいたってわかるさ」
ダビデはさも当然であるかのように云い切る。予想ではなく確信している口調だ。それにエミヤが疑問を呈する。
「わかる? 彼女は確かにマスターとしてレイシフトしているから大雑把な座標はわかるだろうが通信機能がない状況で向こうが察知して割り出すまでには時間が……」
「彼が報告しているだろう。他ならぬなまえちゃんの危機だ。時間はかけないだろう」
「彼ってアンタ、誰の事を云って――」
その時、ピピーーッと繋がらなかったはずの通信機能が起動する音がしたと同時に花の魔術師の顔がホログラムされる。
『もちろん、ボクのコトだろう、ダビデ。
私にはなまえのコトはすぐにわかるからね。
…………、それにしてもなまえ。
此処は真っ先に「助けて、マーリン」とか呼ぶべきシチュエーションだろう!? キミがいじらしいのはわかっているけど、待っていたんだよ!
タイミング良く登場しようとしても、キミはいつまで経ってもソイツらと楽しげに話してばかりだなんて』
「「「……………」」」
「ほらね? 云っただろう」
横目でなまえの表情を見たエミヤとロビンが何か云おうとしては口を開くが、かける言葉が見つからないのか結局、口を閉ざした。
『ああ、かわいいなまえ。キミが不運に巻き込まれるのは見ていて楽しいけれど、もっと頼ってくれな ―― 』
『退け。邪魔だ、マーリン!
なまえが困っているのだ。早くレイシフトさせろ。なまえ待っていろ、あと数分でそちらにレイシフトサークルを出させる』
マーリンの言葉が不自然に途切れ、ホログラム画面が一瞬真っ白になったかと思うとすぐにオルタが顔を出した。
おそらくプレゼント袋をブラックジャックのように使い、強制的にマーリンを退場させたのだろう。画面越しに見えた速度と音から云って、躊躇いも容赦もまるでない。先程の最低な台詞を聞いたばかりでも、少しだけ心配になった。
それからしばらく誰も口を開かない沈黙が続くと、オルタの云った通り、船の片隅にレイシフトサークルが出現する。
一番サークルの近くにいたロビンがそそくさと「じゃ、お先に」とレイシフトをしていく。他の面々もゆっくりとそちらに向かいはじめたが、エミヤはサークルの前まで来るとなまえの方へ振り返った。
「その、君の息抜きにもなればと思って誘ったのだが裏目に出てしまったな」
やや同情するような、神妙な面持ちでエミヤは言葉を続ける。
「私も女難についてはよくわかっているつもりだからな。
重い気持ちには苦労がつきものだ。マスターも清姫だの頼光だので大変だし、マスターとしての宿命ともいえるかもしれん。しかも君はあの男以外にも面倒なのばかりに好かれているだろう。誰とは云わんが。見ていて時折、あの苦労を思い出して胃が痛くなりそうだった」
「エミヤさん……」
―― それ、つまりわたしに男運がないとでも云いたいんですね?
不本意ながら事実だとしても、フラグ一級建築士であるエミヤさんや藤丸君と一緒にされるのは大変遺憾である。一応気を遣って云っているらしいエミヤさんに口には出さず、心の中だけで抗議の声をあげた。
「私も生前、男女関係で苦労した身としては見過ごせなかったんだ。今回の事は余計なお世話というより、あの男のアレな部分を浮き彫りにしてしまったようですまない。
……いや、既に14行きが確定している君に云うのも野暮だったな」
「確定しているとか云わないでもらえませんか」
流石に声に出してツッコんだ。
真顔になるわたしに「希望は持っていたほうがいいのかもな」と励ましてるんだか突き落とそうとしているのか分からない言葉をかけて先にサークルにのり、彼はカルデアに戻った。
それに余計に疲れたような気がして肩を落としていると、まだ残っていたダビデから声を掛けられる。
「なまえちゃん」
「どうしたんですか、ダビデさん。舵の次は何を壊したんですか。もう通信機器とサークルはやめてくださいね」
「いやいや、そうじゃなくて。まあ、これは話半分の忠告として聞いてくれていいんだけど」
一旦言葉をきったダビデは話半分と云いながらも、真面目な顔でなまえを見つめた。
「あまり彼を刺激しない方がいいと思うよ。サーヴァントなんて態でいるけど、本当は違うからね。ふざけて見えるけど、フリをしてまで他に譲ろうとしていないのだから、ふざけてはいないだろうし。そうだとしても入れ込んでいるのは明らかだから」
“彼”というのがマーリンの事だとはすぐにわかった。
そして、ダビデの方こそいつもふざけて見えるが、常に態度を崩さず冷静な状況判断ができるリアリストだ。シビアな戦況でもそれは決して揺るがない、英雄としての風格さえ感じさせる。
普段は全くもって信用ならないが、こと戦場や真面目になった際にはなまえは彼をとても信頼していた。
「つれない態度はいいけれど、許容を見誤っては駄目だ。
あと君は人間が物事にする定義と彼のような人外の定義は著しく違うことを認識した方がいい。それをしないと君だけが傷ついていく結末になる」
思い当たる出来事に、息を詰めた。
わたしとマーリンの事は興味がなさそうに関わってこなかったが、意外とよく見ている。それは彼以外にも云えることなのかもしれない。
「うーん、つまるところ、逃げない方が身のため、かな。逃げても良い結果にはつながらない。
状況を悪化させるだけだろうし、危害を加えるつもりはないんだから、実質無害なものさ」
「……逃げませんよ。大体、逃げる場所なんてこの世界にないでしょう?」
「うん? 逃げる方法はあるにはあるよ。
あるにはあるけど、聞かない方がいいんじゃないかな。聞くこと自体も判断によっては駄目だろうし、逆鱗にふれたら元も子もない。
ほら、僕の逸話にもある箱とか有名なのではパンドラの箱があるだろ?
あれは試されていると同時に誠実さを示す道具にもなるんだ。思惑はどうあれ、結局あれは課した方の満足のいく答えでないと駄目だからね」
じっと見つめる若葉色の瞳が、少しだけ困ったように細められた。その仕草で万が一にもこれが冗談ではないことを悟る。
彼は真摯にわたしを案じているとわかったからだ。そうして最後にこう紡いだ。
「ここは誠実さを示した方がいい。これが僕に出来る最大限の忠告かな」
徹底的なリアリストの効率主義。その彼が云うのだから間違いはないだろう。
だけど、それはあまりにも ――
アークもパンドラも箱を開けた末路は知っている。
希望があるとは限らない。不利益しかないかもしれない。けれど、それでも誘惑に負けて手を伸ばすのは人間として、人間らしい行為だろう。
わたしは、自分がこの異世界でどうあるべきなのか、未だ計れていない。
狭間を揺蕩うようにいったりきたり。
そんなわたしが自分を定めるものに手を伸ばさずにいられるのだろうか。
誰も開けてはならぬ
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