皆さんは、ゲームで云う隠しキャラをご存じだろうか?
端的にいうと、ある特別な条件や選択肢によって出現するキャラクターの事である。
悲しい事にこのヤンデレ周回人生ゲームにもあるのです(白目)

ソレは度重なるヤンデレ達に辟易していた50回目のこと……いや70回目あたり?で思いついたことが起こりだ。


「そうだ、高飛びしよう」

周回開始直後から、海外に高飛びしてしまえばヤンデレとの呪いのようなフラグだって立たないはず、とまさしくフラグな事を思ったのだ。

今の私ならこう言いたい。

やめておきなよ。さらに難易度上がるだけだから。

……つらい。真実はどうしてこうも辛いのか。
そして周回初日からまさしくフライハイした私に待っていたのは


「全員手を上げろ! この旅客機は我らが占拠した!」

―― 飛行機のハイジャックでした。

おお、ジーザス。
だが、私にとってヤンデレ達より怖いものはない。そしてこの時の私はその前の周回で悲惨な結末を迎え、かなりハイになっていた。
そのうえ、そのまま航行を続ければ、「人質ごとテロリストは潰す」な国に着いてしまう焦りもあったと付け加えておきたい。



(ハイジャック如きに私の平穏な生活を脅かされてたまるかっ!)

飛び降りよう! さいわい以前の周回でパラシュート経験はある。……いや待て、今高度は何キロだ。危なすぎる。


一度、大きく深呼吸をする。

落ち着いてくると隣の男性がさっきからごそごそ荷物を漁っている音が聞こえる。遺書でも書こうとしているのだろうか。


とりあえず落ち着いて論理的に考えよう。
このまま行けば、ハイジャック犯諸共に撃墜とかされて殺されてしまうだろう。
それはマズイ。死因の追加はもうヤンデレたちだけで充分だ。

……そうだ!
なら要は諸共殺されてしまう前に、ハイジャック犯を潰せばいいじゃん…!
ハイ、完結。


(やっぱり焦るのはよくないわ。こんな簡単な事にさえ気づかないなんて!)

そうなればまずは敵の観察だ。
武器と人員構成、配置と役割……何よりパイロットの命が最優先だ。
パイロットが殺されてしまって運転できる人がおらず墜落とかハイジャックでは起こりえる事態だ。
「お客様のなかにパイロットはいらっしゃいませんか〜?」なんて問いかけても都合よくいるはずもない。


(あっ、飛行機の操縦も学んでおこう。ヤンデレから逃げるのに役に立つだろうし)

自分でそう思ったが、役に立つ機会がないことを祈る。飛行機操縦できなくちゃいけない事態ってなんだ。もうこの周回で終わりにしたいのに。


「……それにしても武器のチョイス悪いな」

思わず口からそんな言葉がもれる。
つい「おいおい、そんな装備で大丈夫か?」と声をかけたくなる。
もし私が、そんな武器だけでヤンデレ達のいずれかを相手取ることになったら「ソレなんて無理ゲー?」と言いたくなるくらいだ。武器調達係の未熟さがうかがえる。それか入手ルートの伝手がないのか。どちらにしろあまり手慣れてはいないようだ。

とにかくまずは武器の奪取。自分のモノは飛行機に乗る際に持ち込めなかったから、なんとかせねば。
大体の作戦を模索したところで、ちょんちょんと肩を叩かれる。

「お困りのようでしたら、こちらはいかがでしょう?」

まさしく渡りに船。
隣の席に座っていた如何にも具合が悪そうな男性から差し出されたソレに手を叩いて喜びそうだった。


「なんてぴったり! ちなみにどうやって手荷物検査クリアしたんです?」

「それは企業秘密ということで……ですが、僕もこのままの状況は避けたいので協力は惜しみません」

「ぜひとも後学の為に知りたかったのですが……仕方ありません。他には何か…」

「それでしたら相手方の情報を幾ばくか…」

といったやり取りの末、無事に私は異国の地に降り立った。

マスコミに囲まれそうになったが、その男性の手引きでメディア露出なく終えられた。そのおかげで「たまたまテレビで見かけたから」というヤンデレ誕生パターンを防げた。
やったね!
……公共の目があれば襲われないだろうという考えからアナウンサーになった周回での悲劇は忘れない。絶対にだ。


「これがまさしくトゥルーエンドでハッピーエンド! 私はついに勝った! ヤンデレの国から逃げ延びた!」

と、その後数か月間の私はまさしく幸せでした。


幸せの絶頂期と断言できた。

……悲しいことに頂点というのはいずれ落ちゆく運命にある。




※※※



「お久しぶりです。相変わらず可愛いらしい方ですね」

(誰だ、コイツ)

いきなり両手を握り締めてきた男に疑問符しか浮かばない。

白いロシア帽に、肩まで伸びた黒髪。血色の悪そうな肌。
今までの周回でも、この異国でも会ったことはないはず……、あっ。

(ハイジャックで隣に座ってた男……!)

そうだ、ハイジャック事件で私の隣に座り、武器提供をした男であった。
今さら出てきて何用なのか。この時の私は、呑気にそんな事を思っていた。

次のセリフまでは。


「準備がやっと整ったんです。さあ、結婚しましょう」

いくら常識がなくなりかけてる私でも、いきなり結婚を口にする奴はオカシイと判る。

血の気が一瞬で引いた。
まさかの新手。まさかの異国の地でヤンデレ。
私は幸せから一気に叩き落された。


「この近くに貴女との家を買ったんです。身一つで来ていただいても不足はありませんから安心してください」

ぐっと私を引っ張ろうとする手は、見た目に反してかなり強い。
まずい状況だ。ヤンデレ達から逃げ切ったと完全に平和ボケをしていた。

だが、ここで下手に握られた手を振りほどくのは得策ではない。
何故なら奴が手を握ってきた時に一瞬触れあった袖口で察した。

(コイツ、袖口にナイフを仕込んでいる)

おそらく手を振り払って飛びのいても、そのナイフが私をとらえる方が速い。
そして隙のない男の身のこなし。

瞬時に悟った私は方針を切り替えた。
とりあえず大人しく従っているフリをして、逃げるチャンスを窺おう。
この近くなら交通手段も悪くない。タイミングさえつかめばチャンスもあるはずだ、と。

………その目論みはものの数時間で砕け散ったが。


「此処での通信手段はこの通信機だけです。僕以外には組織の人間でも限られた相手にしか繋がりません。あと下山するにはヘリ以外の手段はおススメできませんね。確実に凍死します」

普通ヘリで数時間かかる距離の雪山を「近く」なんて云わないでしょうが!
雪山なんて食糧見つけるの大変じゃん! 
日本のヤンデレ達でも田舎の山麓とかだったよ!
もう山の中逃げ回るうちにジビエ料理もお手の物だよ!!

……あの頃思い出すと涙でそう。なぜ現代に暮らしていて獣を狩らねばならないのか。


「あの、買物とかに出掛けるにはどうしたら…?」

「……? 必要なものがあるなら物資はヘリから投下して届けてもらいます。僕が拠点を移さない限りは貴女が此処を出る必要は一生ありません」

「物資を、ヘリで、投下……」

つまり此処から出るにはコイツが出掛ける時だけ着陸するヘリを奪取したうえに、自分でヘリ操縦出来ないといけないの?

……脱出難易度ハード過ぎるでしょ。


「えっと、ささやかながら結婚したことを友人とかに連絡したいんですがどうすれば?」

「……そうですね。貴女のご友人が不慮の事故で亡くなる可能性もありますが、それでもよろしければ手配はしましょう」

不気味なほど穏やかな笑顔がとても不穏だった。
確実に私の友人が死んでしまう。

ワールドワイドなヤンデレ怖い。

そしてこの後。
高飛び後の短い幸せ期間を忘れられなかった私は、次の周回でめっちゃか弱い女性を演じた。
フョードルの好みがハイジャック事件を解決できるような強さを持つ女性だと思ったからだ。


その教訓を胸に、次の周回ではハイジャック犯の持つお粗末な銃にも大袈裟なくらいに怯えて縮こまったり、女優顔負けの演技力だったと自負している。

だが気づくべきだった。
ハイジャックされる飛行機のチケットは前回とは違う席を取ったはずなのに、フョードルが隣の席だった時点で。……呪いかな?


その所為で怯える演技の8割は本気だった。
完全に閉鎖された雪山の屋敷内。じわじわと精神を追い詰めるのが得意なタイプだったのだ、フョードルは。

ちなみにハイジャックは無事に奮起した別の一般人により解決した。裏でフョードルが手を引いていたようだが、それはそれ。私には“ハイジャック関連”では何も降りかからなかった。

そして意気揚々と飛行機を降りた私を待っていたのは、


「貴女のような女性が一人で生きていけるはずがありません。僕が守ってさしあげますから、さあ、どうぞ手を」

空恐ろしいほど慈愛たっぷりに微笑んだフョードルだった。

本気で悲鳴をあげた私の反応は正しいと思う。

さらにこの後、出国先を変えても、また別のヤンデレが出てきて、私は高飛びという選択肢を諦めざるを得なかった。
どうやら、高飛びの選択肢はどうやっても隠しキャラルートらしいと知った。

……このクソゲーが!

以上が、私が乗り物系全般を操縦できるようになった経緯である。


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