はたして皆さんは食事を作るたびに拝まれることがあるだろうか。
しかも「推しの手料理、尊い…」と現代人しか理解できない内容を発している彼女に苦笑する。
同じ食卓に並んでいる薫も剣心たちも、その彼女の奇行に慣れたようで気にせず食事を始めているのを見て、あらためて異様な光景に目が遠くなった。

突然だが、私はこの明治の世で神谷道場の長女に転生した。
最初は薫成り代わりかと焦ったものだが、すぐに薫も産まれて私達は仲の良い姉妹である。
小さい頃はきたる原作に備えて薫と一緒に父から剣術を習ったものだが、私にはからっきし才能がなかった。
悲しいことに剣術以外の武術も試してみたが、まるで身につかず、原作に巻き込まれた場合の危険度がやばいことが判明した。大人しくしていれば避けられそうだが、安全とは言い切れない。
そんなわけで「命大事に」が心情の私は、原作に関わる前にどこか安全なモブに嫁入りして平穏に過ごそうと、この時代の教養以外にもお茶やお花や、料理をはじめとした家事スキルを磨くことに専念した。
さらに見た目が某鬼退治の美人姉妹の姉のようなのも相まって、近所でも評判の美人として名が通っている。

だがしかし、現実は無情である。
いくら美人で気立てが良くても縁談が来ないものはこないのである。
もう原作に入る年になってしまい、「もうどうにでもな〜れ〜」というテンションでセーラー服姿の行き倒れの少女を拾ったのである。
いずれ妹の薫は胡散臭い地上げ屋の男を拾ってしまうのだから私が少女を拾ってしまうのは誤差である。
そんな心持ちでいたら、どうやら彼女は現代から転移してきたらしい。
しかも「るろ剣!?」と口走っていたのでトリッパー確定であった。
ここで冷水をかぶせられたように正気に戻った私は、原作にいないキャラだと糾弾されるのではと戦々恐々としていたら、彼女──ルビーちゃんに「推しです!守らせてください!」と高らかに宣言された。

わけが分からない。

ひとまず理解していない風によそおい、行く宛てがないならと道場の居候となったルビーちゃんだが適用能力がバリ高なのか、どこかで仕事を見つけてきて今では立派なウチの稼ぎ頭である。原作通り、ウチには居候が増えているがまともな収入を入れてくれるのはルビーちゃんだけなので正直とても助かっている。彼女がいなければ家計は火の車だったであろう。
異世界トリッパーつょい。

そんな頼もしいルビーちゃんだが、悪癖がいくつかある。
まず、私の行動にいちいち「推しが…!!」と拝む勢いで感動すること。勢いが凄くてちょっと怖い。あの演技中の斉藤さんでさえ彼女の奇行を見たときは思わず素で呆然としていた。
初期は薫も剣心たちもドン引いていたのに今では誰も反応をしめさないのでエスカレートしているような気さえする。誰か本当に止めてくれ。
ご近所でルビーちゃんの奇行を見られると、私の教祖疑惑が深まって更に縁談が遠のいてしまう。

そして一番の悪癖は私にフラグを立てようとするのである。
剣心とルビーちゃんと三人で買い出しに出掛けたはずのに、いつの間にやら剣心と二人っきりで逢い引きのようなことをしてしまっていることが多々ある。
剣心も剣心でお人好しなのか天然なのか気にしていないようだが、私がいたたまれない。
さらに別の例で言えば、私に町で大量の花を抱えて帰らせ、道すがら花を少し落としてしまったところを蒼紫に拾ってもらうという、どこの夢小説で書かれたんだと聞きたい四乃森蒼紫との出会いまで仕組まれた。

わけが分からない。

ルビーちゃんの自分が考えた最強のシチュエーションを叶えるプロディース能力も分からないし、ルビーちゃんが何を目指しているのかわけが分からない。
いや、オタクの正気(狂気か…)を考察するのなら、私という推し()とキャラをくっつけようとしているのだと思うが……わけが分からない(n回目)

ひとまずこのままではヒロインに仕立て上げられそうなため、隣町の知り合いにどうにか縁談を繋げてもらったが、見合いの当日に待ち合わせの店に行けば秘密にしていたのに笑顔のルビーちゃんが待ち構えていて軽く悲鳴を上げた。
しかもお相手の表沙汰にされたくない所業を暴き、破談まで持っていったのである。淡々と証拠をあげ、相手を論破していき追い詰める彼女はまさしく修羅であった。
私まで軽くトラウマになって夢で魘されたくらいなので、お相手はさぞ恐ろしかったことであろう。
さすがにこの行動には薫からも苦言をこぼされたルビーちゃんだが、「推しが幸せならOKです!と言いたいところですが、モブと結ばれるのは地雷なんです…!」と明治勢の誰にも理解できない言葉で泣きながら主張する彼女にもう誰も何も言えなかった。

さらにその後から彼女のフラグ立ての悪癖が悪化したので、もう原作が終わるまで見合いは諦めている。悪癖と奇行が多いルビーちゃんだが、危ない場面では必ず私を優先して助けてくれるので妥協も必要だろう。

「さあ、次はいよいよ京都編! ああ、ついになまえさんのあんなシチュエーションやこんな胸キュン場面を生で見られるなんて…!! ありがとう世界!」

私がこの後、道中でそっとドロップアウト計画を立てたのは言うまでもない。

るろ剣世界に薫の姉として転生トリップするも、自分には戦闘系の才能がまるでないため、原作には介入せず、どこかのタイミングでモブに嫁入りでもしてドロップアウトしようとする夢主。
ところが成り行きで行き倒れの少女を助けたら、現代からのトリップしてきていたようで、なんやかんや神谷道場で面倒をみることに。
もしかしてここは原作ではなく夢小説世界で、自分は当て馬とかか…と心配するが、なぜかトリップ少女は自分にやけに好意的。しかも世話をするたびに「推しが尊い…」とか拝まれ、なぜか薫ではなく自分と剣心をくっつけようと画策している始末。
疑問に思っていると、トリップ少女の世界の漫画では自分が原作キャラとして登場していて、誰とも結ばれないものの、隠れ人気ヒロインとして男性キャラとのカップリング論争まで起こっているらしい。
ちなみにトリップ少女は特典でチートスキル持ちなので実質夢主の護衛になってくれるが、夢主強火推し同胆歓迎オールカップリング推奨の過激派なので、夢主のドロップアウトを許さず事ある毎に夢主を巻き込むので苦労が絶えない。

というネタでしたが、書き始めたら異世界トリッパー・ルビーちゃんのキャラが濃すぎてルビーちゃん夢では…?と思い始めたので、ルビーちゃんがいない軸で書いた方がいけるかもしれない。
ルビーちゃんも納得できるルート分岐でこの夢主が一番幸せになれるのはたぶん比古さんルート。比古さんの恐ろしい強引さに、見てるルビーちゃんは胸キュンして、夢主は基本流されやすいので丸く収まる感じ。

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