「なまえさんは圧倒的に無力でございましょう。事実として、一般人とはいっても魔術の心得のあるマスターにも、カルデアスタッフの方にも、ましてや最弱と呼ばれるサーヴァントにさえ敵わないほど、なまえさんは無力です」
二人きりのお茶会で、玉藻はなまえに向かっていきなり切り出した。それは否定しようのない事実だった。
「このカルデアにいる誰もがなまえさんを殺せますが、なまえさんは誰も殺せません。云ってしまえば、そんななまえさんに警戒心抱くとか、プライドの高ければ高い程できねーのでございますよ。英霊なんてプライドの塊、といっては難のお方もおりますが、ある程度自信のない方はおりませんので」
ノンブレスで言い切った玉藻が、一息して紅茶を口に含む。
「まあ、そうやってすんなりと受け入れさせてしまうのはなまえさんの人柄というか毒のかけらもない雰囲気の成せる技なのかもしれませんが。ですのでこれはわたくしの珍しくも完全なる善意から断言いたしましょう!」
そして両腕を広げ、さも大仰に、
「なまえさん、正直言ってヤンデレに好かれます」
―― 宣告した。
ハートマークがつきそうな語尾だったが、言ってる内容になまえの頬が引き攣った。
「これは無力とか関係なく。なまえさん個人として。
こうオーラというか、ヤンデレ嗅覚をピーンっと刺激するのです。元ヤンデレの玉藻ちゃんが云うのですから間違いありません! ……この間の女子会で清姫ちゃんも同意見でしたし」
そんな事が話題に出る女子会怖すぎなんだが。
「このカルデアにあのドクサレ暗黒イケモンとかいなくて良かったですね。いや、ほんと!」
玉藻は晴れ晴れと、いやー良いコト云ったわ私、というような顔をしている。
彼女たちのマスターでなくて良かったというべきか、何それ理不尽とか、言いたいことはたくさんあったが、なによりも。
「断言されてもわたしにどうしろと……?」
せめて対処法をご教授願いたい。
気を付けろ、だなんて気休めにもならない対処療法ではなく、ナイチンゲールのように根本を根絶やしにする方法がほしい。
「まあ、ヤンデレっぽい方に近づかなければいいんじゃありません?」
「なげやりすぎません?」
「う〜ん、玉藻ちゃんとしては人の恋路の邪魔をしたくありませんし……」
「恋路の前に人生歩めなくなる危険を回避したいんだけど、私は、わりと、切実に」
「えぇ〜大丈夫ですよぉ。最近のヤンデレは“お前を殺して俺も死ぬ”なんて追い詰められなければしませんって!
むしろ外堀を埋めて逃げられなくして、じわりじわりと囲い込むのが最新の流行りなのです」
「それ全然大丈夫じゃなくない!? というかヤンデレ卒業したって言うわりに、なんでそんなヤンデレ流行りに詳しいの!?」
本気で鳥肌が立ってきたなまえに対し、玉藻は朗らかに、まるで「もうすぐ夏ですね〜」と言うような気軽さでのたまった。
―― 冗談では、ない。
内心でなまえの心は恐怖に染まる。
なまえはしばらく前に、このカルデアに保護された。
異世界から来て、行く当てがあるはずもなくカルデアに身を寄せた。なまえは生身の人間で怪しいだろうに、他に異世界から来たサーヴァントもいるのでわりとあっさり受け入れられていた。
もちろん、なまえの最大の秘密である、この世界が自分の世界で“ゲーム”になっている事は誰にも言っていない。
言って何かが変わる事が恐ろしいし、何より目立ちたくなかった。
―― 死ぬの怖い。目をつけられたら殺されそうで怖い。
自分は頑張れる、頑張れないで言ったら、はっきりと頑張れない側に位置する人間だと断言できる。
ゲームでは死亡ルートがあまり描かれていないが、そういう可能性は大いにある世界なのだ。
此処にいるのは皆、よい人ばかりでこんな自分にもフランクに接してくれるが、どこか恐怖心を抱いてしまう。目の前の玉藻にも。他のサーヴァントにも、スタッフにも、藤丸君にも、だ。
唯一、怖くないと思えるのは不夜城のキャスターである。
彼女も彼女で怖い時もあるが、一番気が楽なのはと問われたら迷わず彼女を選ぶくらいには臆病なのだ。
それが、どうして、ヤンデレに好かれるなんて。
青褪めて、明るく取り繕えなくなったなまえに、玉藻が少しだけ気の毒そうに言った。
「なまえさんの場合、目を離すと死んでしまいそうなところが特にそそる……、いえ魅力なんじゃないかと玉藻ちゃんは思うのですよ」
だから、と励ますように力強くなまえの手を握った玉藻はその眉を下げた。
「きっと囲われた方が安全ですよ? 正直、手遅れと言えなくもないですから、あの方……」
そしてなまえにとっては、絶望に等しい言葉。あるサーヴァントの名前を、口にした。
シリーズにしようか迷っていたプロローグ的な話。
マスター適性もなく、特別な力もない、だた原作知識だけがある臆病な夢主が、ヤンデレに好かれてしまうネタ。
分岐短編みたくしようか、それとも固定のお相手にしようか迷ってお蔵入りしていたので、今回とりあえず引っ張り出して書いてみました。
マスター適性もなく、特別な力もない、だた原作知識だけがある臆病な夢主が、ヤンデレに好かれてしまうネタ。
分岐短編みたくしようか、それとも固定のお相手にしようか迷ってお蔵入りしていたので、今回とりあえず引っ張り出して書いてみました。