あれは私の周回記録7回目……あれ? 17回目だっけ。
私がまだヤンデレ達のことを心の中でも“さん”付けしていた時期なので30回目以内だと思う。
とりあえず、そのへんの細かい事はおいておいてほしい。
とにかく、その周回で、わたしを追い詰めたのは「中原中也」。
元の世界では有名な詩人の名前で私は個人的に好きだった。
言うまでもないが、彼の詩が好きだっただけでこの世界でわたしを追い詰めた彼が好きなわけでは断じてない。
あの周回での悪夢の始まりは……何だったか。
結構普通に、まともな感じだったと思う。急に刺されたりしなかったし、出会い頭の脅迫プロポーズじゃなかったし……
あっ、そうだ。花束だ。花束を差し出されたのだ。
「みょうじなまえ、手前が好きだ。俺と付き合ってほしい」
艶やかな薔薇を手に、真剣な表情で言葉を紡ぐ男。映画のようなワンシーン。
一瞬、息が止まるほどに見惚れた。
……今の私なら本気で息を止めるだろう。花束には飛散系の薬が塗られている事があるからだ。ヤンデレに狙われる同士淑女の皆さまは覚えておくように。
「お、お手柔らかに…お願いします」
数回前の周回で同じ顔に脅迫されたあげくに周りの人間まで死んだというのに、この頃の私にはまだ夢や希望があった。
『もしかしたら、今回はマトモなのではないか』という夢。
……打ち砕かれていく夢というのは文字通りなんとも儚い。今思い返すと涙が出そうだ。
悲しくなるので、あの頃の夢あふれる自分の思考も交えながら冷静に分析してみよう。反省と教訓は大事。……それなのになんでループに終わりが見えないんだろう。
とりあえず付き合って2ヶ月で同棲を始め、交際は順調に続いた。
…いや、少し早いのかな?
出逢ってすぐに強制監禁生活とかざらなので、もう普通の基準が分からない。“最初”は同棲と呼べる生活だったから大分マトモだと思う。
最初はマフィアの女になったからには危険がつきものだと、外出する際には必ず連絡するように云われた。
これは大変分かる。
マフィア幹部の女が無防備に歩いていていたら、敵対組織のカモだろう。
納得して了承した。GPSもしょうがないと思った。
次に、敵対組織がきな臭いから、なるべく家から出るなと云われた。
まあ、分かる。
抗争が激しくなっているのなら、私のような戦力外は外出は控えるべきだと。
前に巻き込まれて怪我を負ったら(周りが)大変なことになったからね。
……コンクリートの建築物って素手で倒れるものなんだ、とだけ云っておく。
その次は、家から出るなと云われた。
俺と結婚するならマフィアの常識を知っておくべきだと教育係をつけられ、「え?」とこのあたりで内心訝しんだ。
しかし、その頃「マトモ」を夢見ていた自分には「結婚」はパワーワードだった。
だって同棲から結婚を考えてくれるってマトモじゃない?
よく考えてみて。無理やり血判押さされた婚姻届じゃないんだよ…?(震え声)
なので、渋々だが頷いた。
ちなみに教育はその後の周回でヤンデレたちを出し抜くのに大いに役立っているので、この点に限り、善い選択だったと思う。
マフィアの常識、銃火器の扱い方から違法行為の売買経路まで。何より裏道や情報統制面を知れたのは大変助かった。
知識を駆使してヤンデレ達の裏をかいたときの痛快さと云ったら…!
……逃亡期間や寿命が数か月伸びたとかそのくらいだったけれど。
やり過ぎて敦君や鏡花ちゃんにドン引きされたのには心が抉れたけど。
そしてお決まりのこの後。
「危ねえから、一人で寝室から出るんじゃねえ。……分かるな」
分かるわけがないだろ(憤怒)
家はともかく部屋から出るなって、「分かるな」の一言でナチュラルに軟禁から監禁に移行させようとする、その思考がヤバイ。
此処でやっと、この周回の私は目を醒ました。
「此処から出たらすぐに俺に伝わる。コレで手前に何かあっても、すぐに駆け付けられるだろ?」
(あっ、今度もヤバイやつですわ。また周回する(死ぬ)んですね、わかります)
そしてこの後の自分の選択がダメダメ過ぎた。
―― よりにもよって(実はヤンデレていた)太宰に助けを求めたのだ。
あの周回で太宰に会ったのは、数えるぐらいだったのにね!!
……二重の意味で酷くない?
中原さんに対抗できる人! とあの頃の自分は思っていた。対抗できるという意味では大いに正しい。
正しいが、知っていますか……?
あいつら人間なのに「混ぜるな危険」をまさしく体現しているのだ。
その周回での太宰がヤンデレじゃなかったら、まあ、何とかなることもある。そういう神回もあった。
まさか太宰に「あなたが神か!」というセリフを云ったのはあれっきりだ。なんで太宰はアレが平常運転じゃないのか。
いや、待てよ……あの神回で私を殺したヤンデレはたしか太宰の……
深く考えるのはよそう。あの神回の太宰は神だった。いいね?
とりあえず両者ともヤンデレの「混ぜるな危険」を混ぜ合わせた周回の私がどうなったのかは……察してほしい。私の周回の1ページに消せない傷を残したとだけ伝えておこう。
思えば私のページ(周回の思い出)、傷しかないんだが……。
つくづく周回を振り返れば、振り返るほどに虚しさが去来する。
反省と感傷を混ぜるのは大変良くないと分かっているが、どうしようもない。
どうしようもないが、それでも目の前の現実とは向き合わなければならない。
「でもやっぱりあの周回、後半に目をつぶれば大分“マトモ”だったなぁ……」
100回飛んで、5回目のループ。
帰り道でぷっつり記憶がなくなり、目覚めたら、“また”知らない部屋でした。内側からは鍵は開きません。しかも監視カメラも完備。完全に監禁仕様です。
本当にありがとうございました!!
接触がなくとも監禁される部屋の内装で首謀者の見当がつく今日この頃。
いろいろ大変だけど………、
今日も私は、……元気、かな。