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※CBC2017礼装「探偵ヱドモン」パロになりますので、ご留意ください。



窓の外は満開の桜。はらり、はらりと舞い散るさまは春の風物詩の名に恥じぬ美しさ。
桜の名所と名高い此処に、療養と観光を兼ねたこの旅行には御付が一人。名を天草四郎という青年はウチに下宿する書生だ。
書生というのは一般的に家に下宿をさせてもらう代わりにその家の雑事を手伝うことが多い。その雑事の一環で、彼にはよく私の外出に付き添ってもらっている。今の世の中、それなりの家の娘は一人歩きがあまり出来ないのだ。

そう。そんなわけで彼と出掛ける事はとても多い。
ということは必然的に ――


「また巻き込まれちゃったわね」

「まあ、放っておくわけにもいきませんから」

隣の書生と苦笑を溢す。同時に二人が視線を向けた先には黒い外套を羽織った男が一人、煙管片手に思案顔をしている。


そこにガチャリとドアが音を立てるとカツカツと規則正しい足音がこだまする。入ってきたしかめっ面の将校は挨拶もなしに用件を切り出した。


「それで今回もこれは事故ではなく“事件”だと云うのかね、名探偵殿?」

「勿論だとも、それ以外はありえん」

名探偵と呼ばれた外套の男がニヤリと笑う。
朗々と男が今回の事件が事故としては在り得ない疑点をあげていくと、将校はますます眉間の皺を深くした。



「 ―― というわけだ。調べぬわけにはいかんだろう。
そうだ、天草。さっきの現場にいた男に聞き込みをしておけ。俺の推測通りなら、何かを“知っていた”可能性がある」

「待ち給え。毎度聞くのも馬鹿らしくなってきているが、立場上聞かなくてはならないのでね。口を挟ませてもらおう。天草、いや君たちは一体今回はどうして巻き込まれたんだ? また殺人容疑が掛けられたわけでもあるまい」

将校からの皮肉が込められた言葉に天草は慣れたように返答する。


「目撃者として連れてこられたのですが、……いつもの如く、ですよ。ヱドモンさんには今回も足として使われてしまいそうです」

「本来ならそういった事は憲兵の管轄なのだがね。仕方ない。かの名探偵の助手ならば融通をきかせよう」

エミヤ将校はやれやれと軍帽をかぶり直すと、ふっと私に目を向ける。


「君はどうする? なんなら軍の施設にいてもらっても構わないが……」

「その必要はない。なまえには別にやってもらうことがある」

「お嬢さんを危ないことに巻き込むつもりなら私も黙ってはいられないが、……名探偵殿に限ってそれはありえんか」

なまえを気遣ったエミヤの言葉を名探偵、ヱドモンが遮る。
それに鋭い視線で釘を刺したエミヤが部屋を出ていくと、続けて天草も聞き込みに出かけて行った。

彼らの足音が遠のくと、ヱドモンはくるりと向き直り、「なまえ」と短く名前を呼んで呼び寄せる。近づいたなまえの手に押し付けるように小銭袋を渡すと、煙管をコツコツと鳴らした。


「いつもの刻み煙草を買ってこい。釣りが出たら、その辺のカフェーで珈琲でも飲んでくるといい」

「……それでは事件解決の手伝いにはならないのではありませんか?」

「これがないとしまらん。俺にとっては大事なコトだ。推理の進みに関わるやもしれんぞ?」

不満そうになまえが口を尖らせると、ヱドモンは面白そうに笑い、手持ち最後の刻み煙草を煙管に詰める。


「他ならぬお前に頼みたいのだ」

そう云われてしまっては云い返せないなまえはヱドモンに背を向けて、素直にお使いにいこうとする。
ドアに手を掛けて出ていく際にちらりと振り返れば、ふうーっと煙を吐き出しながら外の桜を眺める彼はもうこちらに背を向けていた。



私立探偵ヱドモン。
世間を騒がせる事件を次々と解決する名高き名探偵。
なまえは彼と初めて会った時の姿を今でもはっきりと瞼の裏にでも思い描ける。


「この娘たちは犯人ではない」

私と天草を連行しようとした憲兵の前に立ちふさがり、毅然と言い放ったその姿。黒い外套とその妖しくも鋭い瞳はピカレスクの悪役を彷彿とさせる風貌。けれど、正義のヒーローのように見事私たちの冤罪を証明してくれた。

不思議な縁だ。
あれから度々遭遇する彼とは付き合いが随分長くなってきた。彼は様々なところに行きかう旅人のような探偵なので、普通なら会いにくい。しかし偶然が偶然を呼び、もうお決まりのごとくエミヤ将校にはそれこそうんざりされるぐらいこのメンバーは居合わせている。
それでも、

“また、会えて良かった”

その背に向けて気づかれないよう、音は出さずに唇だけを動かして言葉をなぞり、なまえは部屋から出て行った。
ドアの閉まる音が響くと、桜を眺めていたように見えたヱドモンはフンっと呆れたように息を吐いた。


「どうしてあの娘は気づかんのだ? いい加減、俺と天草が繋がっていることぐらい気づいてもよいだろうに。まったく、これだから……」

難事件でも滅多にしない憂い顔で名探偵は煙管から最後の灰をコツリと落とした。


「目が離せん」




名探偵の悩み事
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