「今日のお話はここまでです」

「え〜、もっと、もっと聞きたいわ!」

「駄目ですよ。もうお休みの時間です。これ以上は森様に怒られてしまいますから」

ベットの中でぷ〜と不満気に頬を膨らませるエリス様を宥めながら、部屋の明かりをさらに落とす。


「ねえ!明日もよ!明日も聞かせてね。特にこの間の話の続きが聞きたいわ」

「それは森様もいらっしゃれる時なので明後日になりますね」

「リンタロウなんていいじゃない!私は早く聞きたいの!」


駄々をこねはじめるエリス様の頭を柔らかく撫でる。
しばらくそうしていると眠気がやってきたのか、うつらうつらしはじめた。


「なまえ、私が眠るまで此処にいてね」

ぼんやりとした声に小さく答えると安心したようにすぐに規則的な寝息が聞こえてくる。


そうっと彼女から離れ、私の監視役と一緒に部屋を出る。
部屋の前に居る護衛達に静かに会釈をして、一人自分の部屋へと歩いていく。



彼女の部屋から距離が離れた処で、ほうっと溜息がもれた。

此処での私の仕事はエリス様の世話役 ―― 主に朗読係というか寝かしつけをすることが多い。

元の世界でいろんなジャンルの漫画やアニメ、小説まで雑食気味にかじっていたので話のネタには尽きない。
この組織のボス、森様も私がする話を気に入ってくれている。まあ、あの方はエリス様ありきだろう。

そもそも何故読み聞かせぐらいしか能のない私がポートマフィアに所属しているかと云うと、気がついたらこの異世界にいたから、としか云えない。


白うさぎを追いかけたわけでもなく呆然としている私が、いきなり迷い込んだ世界で出会ったのは不思議の国のアリスのような女の子。
しかも、その子はマフィアのボスが溺愛している女性で、そのマフィアのボスも幹部も私の世界の名だたる文豪の名前をもっている。

おかしな話だ。私の方が不思議の世界に迷い込んだアリスのよう。そんな年齢ではないけれど。


格子窓から差し込む月の光は柔らかく、赤い絨毯が敷き詰められた廊下を照らしている。
こんな豪奢な造りの屋敷に自分が暮らしていることさえ信じられない。


物語ではアリスのみた世界は全て夢で終わるけれど
この世界は夢か現か幻か。


目覚める兆候のない私には
 まだわからない――――



シェヘラザードはワンダーランドの夢をみるか
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